ガーミンのようなマルチスポーツウォッチでとれる多種多様なデータをトレーニングやレースでどう活用すれば効果的に速くなれるのか?
KONAチャレ・プロジェクトリーダーの竹谷賢二さん(TK)による「マルチスポーツウォッチ使いこなし講座」の後編。
>>前編(スイム、バイク)の記事を読む
ラン
ターゲットゾーンでトレーニングする
ランはペース、心拍が主な指標になりますが、バイクと同様トレーニングで重要なのはレースと同じゾーンでどれだけやるかです。
この表は去年のケアンズのラン42㎞の、平均ペース、心拍、ピッチ、ストライド、そして1㎞ごとのラップタイムの推移をまとめたものです。
ケアンズは平坦なコースなので㎞ごとのラップタイムがとても参考になります。
高低差による変動がないため、時間の経過によるラップタイムの落ち方を見ていけばいいわけです。
平均ペース4分46秒/㎞より速かったラップが緑のアンダーラインで示されていて、何も線が引いていないのが平均より遅かったラップです。当然ですが、後半は平均より遅くなっています。
平均より一番速かったのが2㎞地点の-29秒、遅かったのが33㎞地点の+27秒です。
1周14㎞の1周目は楽に走れていましたが、2周目が終わる頃にだんだんキツくなってきて、33㎞でかなりペースが落ちました。
しかしこのあたりで同じくらいのペースの人と一緒になり、抜きつ抜かれつしているうちにペースが少し戻っていったという展開でした。
このレースでわかったのは、25㎞あたりまでは平均ペースが維持できること、課題としては、さらにそこからこのペースを維持できる能力を強化しなければならないということです。
また、トレーニングのペースは上げても平均-30秒、落ちても+30秒くらいの幅で練習すればいいということがわかります。
つまり平均心拍数は151くらいで、4分:46秒±30秒くらいのペースがトレーニングのターゲットゾーンということになります。
ペースを維持できるようになるには
まずピッチを維持する練習を
このグラフは同じケアンズのランのペースとピッチ、ペースと心拍数の推移です。
青く塗りつぶされたグラフがペースで、右肩下がりになっているのがわかります。
上の図の青い点のグラフはピッチで、ペースが落ちてもピッチはほぼ維持できていることがわかります。
ランでは一定のピッチをキープすることが、ペースを維持するためにとても重要です。
ピッチが遅くなるとペースも落ちますから、ピッチが維持できない人は、トレーニングでまずペースが落ちてもいいから、ピッチを維持する練習をする必要があります。
ピッチが維持できている場合は、ペースを維持する練習をしていきます。
心拍とペースの推移から
トレーニングの課題が見えてくる
下のグラフはケアンズのランのペースと心拍の推移を表したもので、赤い折れ線グラフが心拍です。
ランニングで心拍が下がるのは、ペースが落ちたから結果として心拍が下がったのか、それともエネルギーが切れて身体が動かなくなり、心拍もペースも下がったのかなど、色々な因果関係が考えられます。
私の場合、心肺機能は低下していないのに、脚の筋肉が疲労し、関節が痛くなり、つらさで身体が動かなくなり、結果的に心拍もペースも下がっていきました。
したがって心拍を一定に保つトレーニングをしても、脚を強化しなければ同じことが起きます。
今シーズン私の課題となっているのは、脚の負担をどう減らすかということです。
具体的にはまずシューズをクッション性のあるものに変えてみました。
レースのコースに合わせた
アップダウンの練習
次の画像は宮古島、ケアンズ、KONAのランのアップダウン、気温の変化、心拍数ゾーンの時間をグラフにしたものです。
これを参考に、バイクの場合と同様、レースに合わせたアップダウンの練習をすること、レースと同じペース/心拍のゾーンで練習することが必要です。
ターゲットゾーンで十分練習できて余裕があれば、ゆっくり長い練習や、高強度のインターバルトレーニングなどをやってもいいと思いますが、優先するのはあくまでレースに合わせた強度でのトレーニングです。
ピッチ、ストライド、上下動など
動きを解析してトレーニングに生かす
同じトレーニングのデータに「ランニングダイナミクス」という項目があります。
これはガーミンのシステムでピッチやストライド、上下動・上下動比、左右のバランスなどをセンサーで計測したデータの総称です。
バイクのペダリングと同じように、ランにおける動きの課題がこうしたデータから把握できます。
この中で動きのロスと関係してくるのが上下動・上下動比です。
「上下動」は何センチ上下に動いているか、「上下動比」はストライドに対してどのくらいの比率で上下動しているかを表しています。
ランニングは前に進むのが目的ですから、上にジャンプしたりスクワットしたりするのは非効率です。
上下動が少なく、上下動比が低い人ほど効率的に前へ進んでいるということができます。
この効率的な走りができると、脚への負担が減り、ランの後半のペースダウンを減らすことにつながってきます。
また、クッション性の高いシューズに変えて上下動・上下動比が大きくなったら、それはシューズの変更がマイナスに働いているということになります。
上下動比を抑える練習で
タイムが向上
アイアンマンのランは、バイクまでに疲労していますから、陸上競技のように速く走るのではなく、疲労した状態でいかにペースを落とさず走るかが重要です。
トレーニングでも最高速を上げる練習ではなく、効率的なフォームで練習し、疲れた状態で走ることができる速度を上げることを目指すべきだと考えています。
先ほど触れたように、レースでのペースダウンには、エネルギー切れや疲労による心肺機能の低下など色々な理由がありえますが、私の場合は脚の筋肉や関節のダメージによる痛みが主な要因です。
レースで後半の落ち込みを減らすためには、上下動の少ない、効率的なフォームで走る必要があります。
私は上下動を小さくするトレーニングを意識的に行ってきました。
例えば、去年の9月のトレーニングデータと、今年の1月のトレーニングデータの平均上下動・平均上下動比を比較すると、上下動が8.6㎝から7.9㎝、上下動比が6.9%から5.9%に低減されています。
つまりそれだけ楽に前へ進むことができるようになってきているということがわかります。
ストライドはスピードに比例するが
ピッチは一定をキープ
次にペースと動きの関係を別のデータで見てみましょう。 これは意識的にペースを上げ下げしたトレーニングのデータです。
青く塗りつぶされたグラフがペースです。上はペースの上にピッチを示す青い点が表示されています。
これを見ると、ペースが上下してもピッチはほぼ一定だということがわかります。
下は同じペースのグラフに歩幅つまりストライドを、青い点で表示しています。
これを見ると、ストライドはほぼペースに比例して長くなったり短くなったりしていることがわかります。
私はこのようにペースが上下してもピッチを一定にキープする走りを意識的に行っています。
スピードを上げても
上下動が大きくならない走りを
次の画像は同じラントレーニングのデータですが、ペースと上下動比、上下動の関係を表しています。
上のグラフは上下動比を赤い点で、下のグラフは上下動を薄い青の点で表示しています。
これを見ると、どちらもピッチほどではないけれども、ある程度の範囲内におさまっていることがわかります。
スピードを上げたときに上下動が大きくなったり、ストライドに対する上下動比が増えると、それだけ動きのロスが生じ、着地の衝撃も大きくなって、脚のダメージも増大します。
疲れてペースが落ちたときは、上下動そのものは小さくなっても、ストライドも短くなっていますから、これに対して上下動の比率が大きくなっていたら、やはりそれだけ着地でブレーキがかかってしまいます。
私はこうしたロスを減らすために、フォームを改善しています。
私はトライアスロンを始めた頃、着地でヒザが曲がり、腰が沈む癖がありました。つまり一歩ごとに身体が沈み込み、持ち上げるという無駄な上下動があったわけです。
これがランで脚の痛みによるペースダウンの主な要因でした。トレーニングを重ねることでこの動きを改善したところ、上下動を減らすことができました。この効果がこれらの数値データに表れています。
ランのギヤチェンジを身につける
これは同じラントレーニングのラップタイムとラップごとの平均ペースを数値で表示したものです。
このトレーニングではペースを速歩、ジョグ、ラン、速いランの4段階に分けて、意識的に繰り返しました。
狙いはレースペースで上下動を減らし、効率的な動きができるようにすることです。
レースペースは4段階のうちの「ラン」ですが、いきなりそのペースで走ると上下動のコントロールが難しいので、ゆっくりしたペースから段階的に上げていきます。
ペースの上げ下げは、ピッチの上げ下げ、ストライドの長短でコントロールできます。
バイクで言えばピッチはケイデンス、ストライドはギヤにあたります。
バイクでケイデンスを一定に保つのが基本であるように、ランではピッチを一定に保つのが基本ですが、基本ができるようになった上で、バイクでギヤを1枚上げてケイデンスを下げるように、ランでもストライドを大きくしてピッチを落とすといったトレーニングをすると、より効率的に走ることができるようになります。
こうしたトレーニングをすることによって、どのペースでも上下動の少ない走りができるようになりました。
その結果、以前より楽に速く走ることができるようになりました。
また下の図データは最近、秋田県男鹿市のアップダウンのあるコースでタイムトライアルを行ったときのデータです。アップダウンがあるコースでも上下動の少ないフォームで走れるようになっていることがわかります。
このときの上下動、上下動比、ピッチ、ストライドなどのデータは、下のようにまとめてグラフ化し、確認することができます。
トライアスリートはとかく年や月ごとの練習量を意識しがちですが、スイム・バイク・ランそれぞれに、マルチスポーツウォッチで計測できる指標を活用すれば、色々な角度から強度や技術を磨くことができます。
みなさんも今回紹介したことを参考に、自身の課題分析やトレーニングの工夫・改善に取り組んでみてください。
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