2018年、9回目のKONAでバイクコースを行く大西さん。2度の関西転勤などライフステージが変遷する中でKONAに出られないときもあったが、それもまた新たな仲間とのつながりをつくる貴重な機会だったと振り返る
50歳代のKONA(アイアンマン世界選手権)常連たちが、強く在り続けるために日々考えてきたことなどを語ってくれたトークセッション。後編はトレーニングやコンディショニング、トライアスロンライフの楽しみ方について――。
このトークセッションはトライアスリートの挑戦を応援する“学び”の総合イベント「KONAチャレンジEXPO」(4月28日)で開催されたものです。
3人のプロフィールなどは〈前編〉に掲載しています
「Zwift」をやる理由・やらない理由
―最近新しく取り入れているトレーニングはありますか?
大西同じことだけやっていると飽きるので、毎年ひとつ新しいことを試すようにしています。最近試したのは「高地トレーニング」と「加圧トレーニング」ですね。
高地トレーニングを始めたきっかけは、2年前のケアンズでKONAの出場権がとれなかったことです。やったらうまくはまって、中国のIM70.3でKONAの出場権を獲ることができた。やってよかったと思います。
加圧は身体の老化にブレーキをかける目的でやってみたんですが、トレーナーと合わなくてやめました。加圧自体ではなく、トレーナーのセンスに左右されるところが多いと感じました。
今はまっているのはZwift(サイクリストやトライアスリートの間で世界規模の人気を誇る室内トレーニングアプリ)のレースです。人と一緒に走れるのがいいですね。バイクのパワーメーターを連動させて負荷を正確に測れますし。24時間なんらかのレースをやってますから、時間が不規則な人でも、人とトレーニングできます。
山内私もZwiftを愛用しています。基本はレースです。週1〜2回、多くて3回ですが、10〜40㎞のレースをとにかく全力で走る。第1集団からちぎれたら第2集団、それもちぎれたら第3集団・・・と、とにかくできるだけくらいつく。チームで仲間とちぎり合いをやるのに似ていますね。
私がトレーニング・プログラムの提供を受けているオンラインコーチングではインターバルのメニューを課されることがあるんですが、ひとりでインターバルをやるのはつらくてできません。しかしZwiftならバーチャルな仲間と楽しく追い込める。コーチにも去年から「メニューのインターバルトレーニングはやらなくていいからレースを全力でやれ」と言われています。
高橋私はインドアトレーニングをやらないと決めているので、Zwiftもやりませんね。楽しそうだし、効果はあると思うので、人にはお勧めできますが、自分はやらない。雨の日にはしかたなくジムでトレーニングしますが、やはり外を走るのが気持ち良いですね。日常生活の中で習慣として長く続けて行くには、楽しく気持ち良く運動するのが大切だと思います。
山内インドアのバイクトレーニングには「安全に追い込める」というメリットがあります。外で事故を起こすと、自分がケガをするだけでなく、まわりにも迷惑をかけます。歳をとってからは若い頃のように飛ばさなくなりましたが、どんなに気をつけても事故の危険はありますし、場合によっては命にかかわります。ハードに追い込んでも事故の危険がないのはインドアトレーニングの大きなメリットではないでしょうか。
身体のケア、気配りは必要
―身体のケアはどうしていますか?
山内2週間に1回、同じ治療室の同じ先生にハリ治療を受けています。呉竹学園という東洋医学の学校の治療室です。値段が安いのと、その先生が自分の身体をよく知ってくれているので助かります。
大西日曜日にしっかりトレーニングして疲れた身体を、月曜日に職場のマッサージ室で30分、マッサージしてもらっています。
高橋3年前に突然、座骨神経痛の症状が出て、外科で検査してもらったところ、変形性腰椎症という診断でした。その医師によると「運動の積み重ねによるもので、治療で治るものではない。うまく付き合っていくしかない」とのことでした。それでもできる範囲でトレーニングを続け、KONAに出ていますが、トレーニングの質は落とさざるを得ない状態です。一方で他の医師に相談したり、検査してもらいながら、治療法も模索しています。
―サプリメントはとっていますか?
大西アミノ酸を愛用していますね。以前はサプリメントをあまりとらなかったんですが、疲労の回復がうまくいかないと感じていました。筋トレで生じた筋肉の細胞のダメージを回復させるのに、アミノ酸のサプリが良いという話を聞いてとるようになったんですが、たしかに疲労が簡単にとれる。
その後は運動前と運動中にとるアミノバイタルの青いパッケージと、運動後の回復に特化したゴールドのパッケージ(アミノバイタルGOLD)の2種類を愛用しています。
高橋私はトレーニング後にプロテインとBCAAとクエン酸のパウダー状のものを飲んでいます。
山内私は2年前サプリをとらなくなりました。以前は色々なものをとっていたんですが、そこに神経を使うのが面倒になってきたんです。やめても特に変わりませんね。ただ、合宿のときにはアミノバイタルを飲みますが。
高橋以前、オキシショットという高酸素水を試したことがあったんですが、後から考えると疲労回復に良かったと思います。5年前、3カ月間平均で週24〜25時間、最大30時間というハードなトレーニングをしたときに飲んだんです。私は鈍感なのか、そのときは効果があると感じなかったんですが、そのトレーニングをこなすことができたのは、オキシショットのおかげもあったのかなと思います。
大西今とっているサプリメントで足りているので、新しいものを試そうとかは思わないんですが、トップ選手がやっていることは気になりますね。例えば競泳の大会をテレビで見ていたら、瀬戸大也選手がレースの直後、控え室に戻りながらアミノバイタルGOLDを一気に3本飲んでいました。直後にとるというタイミングと、3本という量は新しい発見でした。
有料コーチングで学んだことを生かす
―山内さんはLumina4月号に登場していただいたとき、50代後半からオンラインコーチングを受けるようになって、効果があったとおっしゃっていましたが、トレーニングで大きく変わったのはどういった点ですか?
山内6年前から「EN」というチームのオンラインコーチングを受けているんですが、一番の違いはまず速さの基盤を構築してから距離を踏むということですね。それまでは最初距離を踏んで持久力のベースを構築してからスピードをつけていくというトレーニングをしていましたから、正反対です。
12月から3月にかけて短く高強度のトレーニングをやって、その後強度を下げて距離を踏んでいく。アイアンマンのアスリートがよくやる長いトレーニングの期間は12週間です。
大西私はKONAに出ることを意識したトレーニングをするようになって、2001年からオンラインコーチングを利用し、2003年に初めてKONAに出場できました。
最初はマーク・アレンのコーチングを受けたんですが、マフェトン理論的な低強度トレーニングが主体でした。「アイアンマンでは80%以上の強度は出さないから、そういう高強度トレーニングはやらなくていい」という考え方です。
しかし「こんな強度でいいのか?」という疑問を感じましたし、レースでも結果が出なかったので、高強度トレーニングを重視するクリス・カーマイケルのオンラインコーチングも受けてみました。そうしたらKONAに行けた。
しかし、それは高強度だけやればいいということではなく、両方やったからうまくいったんだと思います。
今オンラインコーチングは受けていませんが、そのときふたつのコーチングで学んだことをミックスして、トレーニングしています。
高橋私はオンラインコーチングを受けたことはないんですが、以前、後輩のアスリートのコーチングを受けたことがあります。しかし、量が少な過ぎるので、裏帳簿をつけてこっそり自分が必要だと思うトレーニングをしていました。
自分のやり方がなぜ正しいか、理論的に説明することはできないんですが、自分の経験から「これくらいやればうまくいく」という練習内容ができあがっているんです。
他の人にトレーニング方法のアドバイスを求められても、量が多過ぎてできない可能性が高いですから、人には勧められませんが。
山内量を増やすのはやり方や判断が難しいんです。仕事の都合などで疲労の仕方や回復の仕方も違いますから。私がアドバイスを求められたら、量より質の高いトレーニングを勧めますね。
大西私がアドバイスを求められたら、「うちのチームの練習会に来て、先頭を引け」と言いますね。KONAに出ている人が多い環境で練習するのが一番いい。
効果的なトレーニングメニューで練習できますし、鏡張りのトレーニングルームでやるインドア練習では、フォームを直すドリルなんかもやります。
ライフステージの変化に対応しながら
新しい楽しみ方を発見。
―年齢や生活環境、仕事などライフステージが変化する中で、苦労したことや学んだことはありますか?
大西2012年から4年間、2度目の関西勤務がありまして、その間はKONAレベルのトレーニングができず、KONAに行けなかったんですが、新しいトライアスロン仲間と出会うことができました。
そこでできたコミュニティは今でも私の財産です。そのときの仲間たちが宮古島で活躍しているのを見ると元気が出ます。環境が変わって思うような練習ができなくなっても、マイナス面だけネガティブにとらえるのではなく、プラス面を見つけて成長の糧にすることが大事だと学びました。
山内私は出版関係の仕事をしていますが、17年前に独立してから仕事のストレスが大きくなりました。ストレスというのは身体・フィジカル的なものも、頭脳・メンタル的なものも同じですから、蓄積されると仕事のストレスをトレーニングで発散するというわけにもいかなくなります。
ストレスがたまったときはトレーニングの量を減らしますし、疲れていたら週末でもトレーニングを休むようにしています。
高橋若い頃KONAに出ていた10年と比べると、自営業に転換してからは時間の自由度が増したんですが、それでトレーニングの量が増え、結果的に故障につながりました。
ずっと「KONA以外は興味ない」と言い切ってきましたが、最近は「KONAじゃなくてもいいのかな?」と思うようになりました。
今年の2月にタイのパタヤで開催されたサバイというチームの合宿に参加したんですが、南国で楽しく運動しておいしいものを食べて――というのも、トライアスロンの楽しみ方としてありかなと思います。
生涯スポーツとして
トライアスロンをいかに楽しむか
―これから年齢を重ねながらどのようにアイアンマン、トライアスロンを続けていきたいと考えていますか?
大西まず毎年どこかでアイアンマンを完走するのは続けていきたいですね。そのために体力を維持していきたい。今年KONA出場10年目ですが、10回以上出ている人は少ないですよね。
86歳のアイアンマン世界王者、稲田(弘)さんのモチベーションの高さは「応援してくれる人、仲間がいるから、コミュニティがあるから」とのことでしたが(※参考記事はこちら)、私も仲間とモチベーションを高めながら、まず60歳を目標にKONA出場を続けていきたい。
山内最近、体力低下が進んでいるので、私も競技として続けるのは60歳くらいまでかなと思います。トライアスロンは生涯スポーツと考えているので、あとはアイアンマンを毎年完走できればいい。できるうちはKONAに出て楽しく完走、出られなくなってもマレーシアなど好きな大会で完走したいですね。
高橋KONAに88年から97年まで10回連続出場、再開した2010年から今年で10年。今年はケアンズに出ますが、故障と付き合いながらなので、必要なトレーニングはできていません。かろうじて週11時間。
来年エイジアップする(年代別カテゴリーが上がる)ので、そこで3回目の表彰台に乗るという目標もありますが、これは体調次第でどうなるかわからない。これからはいかに少ないトレーニングでアイアンマンを完走できるかを追求していきます。
KONAに行くには意識を改革して
行けるトレーニングをすること
―最後にKONAチャレメンバーをはじめ、KONA出場を目指している人たちに向けて、一言アドバイスをお願いします。
高橋KONAに行けない人のほとんどはトレーニング不足です。行くためには行けるトレーニングをやる環境に身を置いて意識改革すること、自分のスタンダードを変えることが必要だと思います。
山内同感です。KONAに行こうとして行けない人は、質・量など色々な意味でトレーニングが不足しています。やってきたことを180度変えてやってみることをお勧めしますね。
大西しつこいようですが、KONAに行ってる人とトレーニングするのが一番の近道です。一緒にやれば違いがわかり、自分に足りないものがわかります。
―今日はありがとうございました。