4月に株式会社メイクスで行われたトライアスリートの挑戦を応援する“学び”の総合イベント「KONAチャレEXPO」では、メインのトークセッションの他、さまざまなセミナーやワークショップを開催した。
そのうちのひとつ、「実戦的! ロングで失敗しない補給戦略の立て方。」の講義内容について紹介しよう。
失敗・失速しないための補給戦略。
アイアンマンやロングのレースで結果を左右する大きな要因となるのが「補給戦略」。トレーニングを十分にしていたとしても、そこで失敗してしまったという経験のある人も少なくないだろう。
そこで、レース当日にパフォーマンスを十分に発揮するための給水・補給に関して村山彩さんがアドバイスをしてくれた。
Profile
講師プロフィール
村山 彩 Aya Murayama
ロバスト株式会社代表・日本初のアスリートフードマイスター。
「食×運動=豊かな心・健やかな体」をモットーに、食事と運動について学ぶセミナー講師や、ランニングと食事を組み合わせたイベント・パーソナル指導、アスリートへの食事指導、アスリートやダイエット向けのレシピメニュー開発・レストランへのアドバイス、メディアでの連載、生活習慣病のカウンセリングを行う。現在は「食と運動」を無理なく習慣化させるための仕組み作りも提案している。2012年、館山トライアスロン総合優勝、IRONMAN 70.3 WORLD CHAMPIONSHIP出場。2014年 IRONMAN70.3台湾年代別優勝。
1978年生まれ。二児の母。
著書に『あなたは半年前に食べたものでできている』(9万部を突破。韓国・中国・台湾にて翻訳)『あなたは半年前に食べたものでできている 実践編』『やせる冷蔵庫』(台湾にて翻訳)新刊『豆皿しあわせレシピ』がある。
大事なのはレース3日前より日ごろの食事
まず基本となるのは、普段の食事です。人間の身体は約60兆個の細胞でできていて、それを作っているのは日々の食事だからです。そのためレース3日前から何を食べるか、ということよりも毎日の食事が最も大事という大前提を覚えておいてほしいと思っています。さっそくですが、今の自分を知るためにも次のセルフチェックを行ってみましょう。なぜこのような質問をするのか、その理由も明記しますので毎日の献立や食品選びに役立ててください。
【Selfcheck10】
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1.肉や魚、卵など毎食食べている
→たんぱく質は一度に摂っても効率よく摂取できないので、こまめに摂取すること。
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2.ご飯+おかずは3品以上摂っている
→主菜はたんぱく質、副菜はビタミンやミネラル、食物繊維を多く含む(野菜・きのこ、海藻類など)ものを。
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3.野菜は濃い色と薄い色を組み合わせている
→ひと言に野菜と言っても栄養構成成分が違うので組み合わせて摂ることが大切。
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4.海藻・きのこ類を積極的に食べている
→ミネラル、食物繊維が豊富。毒素の排出にも役立つ。
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5.鉄分を多く含む食品を意識している
→鉄分は酸素の運搬に重要な役割を果たす栄養素。特に豚レバーに豊富。
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6.豚肉などビタミンB1を意識している
→糖質の代謝を高めるため、不足すると糖質の代謝がうまく回らない。豚肉、大豆製品、玄米などに豊富。
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7.間食は不足した栄養素の補てんのためにする
→おやつ=お菓子ではなく、3食で摂り切れなかったものを摂る。栄養素の補給と考える。
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8.ジュースよりもお茶やお水を飲んでいる
→お茶や水のほうがリスクが少ない。ジュースは砂糖水と思っていい。
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9.商品の原材料を確認して買い物をしている
→量より質を。「原材料」をチェックする。含有量が多い順に記載されている。/(スラッシュ)以降には添加物が書かれているので、分かりやすい。
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10.運動後、早めに補食をとっている
→疲労回復に大切。30分以内に、糖質+たんぱく質でリカバリーする。
たくさんチェックが付いた人ほど、日ごろの食事に気を遣い、レースまでの組み立てがきちんとできている人だと言えます。
チェックがあまり付かなかった人は、補給戦略の前にまず日ごろの食生活を見直してみるといいかもしれません。
特別な食事は必要ない
「毎日の食事で何を食べればいいの?」「何を食べれば強くなりますか?」という質問をいただくことが非常に多いのですが、「これさえ食べればレースで失敗しない!」というスーパーフードは存在しません。だからと言って特別な食事をする必要はなく、ごくシンプルに考えてみましょう。繰り返しますが、トレーニングと同様、毎日の積み重ね、継続が最も重要な要素だと覚えておきましょう。
基本を理解した上でレースに臨む
毎日の食事が大事というのを理解した上で、レース中は普段とは少し違った視点が必要なことを覚えておきましょう。たとえば、ビタミンB群や食物繊維が豊富な健康食の玄米を毎日食べているとします。でも、食物繊維が豊富ということは、消化に時間がかかるということです。これは、レース中に胃腸に負担をかけることになりますので、普段の食事が玄米ご飯だったとしても、レース前中後は消化に良い、白米をチョイスすると考えられればOKです。
<レース当日>
一般的に消化には3時間かかると言われているので、スタート3時間前までに食事をします。さらにその後スタートの1時間~1時間半前に補食を入れます。そして、スタート直前の30分~45分前に固形物は避けて、すぐにエネルギーに変わる糖質を摂りましょう。
<レース中>
レース中に不足(消費・排出)したものを補うことというとてもシンプルな考え方をします。大切なのは、①水分・②塩分・③糖質(エネルギー源)の3つです。
まずは水分。1時間に400~800ml の摂取、夏はもっと多くなります。これも距離や個人差がありますが、お腹がちゃぷちゃぷするようであれば、一気飲みしているか量が多過ぎるので、調整する必要があります。小まめに多く摂るということを目標にしましょう。適温は10℃くらいが目安なので、エイドでもらうときは、クーラーボックスから出したばかり、と思えるものは避けるようにします。
塩分は、水分の0.1~0.2%、水100mlの場合、40~80mgのナトリウムが適切だと言われていますが、これを計算するのはとても難しいので、すでに計算されてナトリウムが配合されているスポーツドリンクを活用しましょう。また、水だけを摂り過ぎると、低ナトリウム血症になってしまうので注意が必要です。
そして、糖分はエネルギー源ですね。その中でもブドウ糖が最もスピーディーにエネルギーに変換されます。
必要カロリー数を計算して
補給食の量を割り出す
では、計算式を使ってレース中どれくらいエネルギーを必要としているか算出してみましょう。
【基本の計算式】
1.05 × Mets(運動強度の係数)×運動時間(h)×体重(kg)
=エネルギー消費量(必要なカロリー数)
基本となる計算式は上図の通りです。また、そのカロリー量から、自分の身体に蓄えているエネルギー量を引いていきます。
【体内に蓄えているもの】エネルギー量からマイナスする
脂肪(20~30%)
筋肉グリコーゲン(1,000~1,500kcal)
肝臓(280~400kcal)
朝食+レース前(500~1,000kcal)
たとえば、2019年のアイアンマン・ケアンズで完走者全体のちょうど中間のタイムだった男性選手の場合で計算してみると(65㎏と仮定)1レースで3561kcal必要になります(年齢や個人差があるのであくまで目安として考える)。
そこで、ひとつの考え方として、レーストータルでジェル何個分必要かというのを計算してみます。ジェル1個を120kcalとすると、この場合は3561÷120で約30個のジェルが必要ということになります。それを3種目に割り振ります。
たとえば、スイム前後で3個、バイクで19個、ランで8個など、個数で表すととても分かりやすくなります。
ここでは分かりやすくジェルと言っていますが、その中には水分も含まれます。スポーツドリンクが120kcalならそれも1個と考えます。また、もちろんジェルだけを摂るということではなくて、バナナ1本(約86kcal)やおにぎり1個(約215kcal)など、他の補給食や飲料と組み合わせて、カロリー計算し、目安の個数摂れるように組み立てるといいでしょう。
一番大事なのは、これを目安にして自分なりの補給戦略を確立していくことです。 皆さんのレースが成功することを願っています!
【具体例】
アイアンマン・ケアンズで全体の完走者のちょうど中間点だった選手のタイムを参考に計算してみよう。
2019年アイアンマン・ケアンズ
Total time 12:19:25(age45-49・男性・65㎏想定)
スイム 1:03:44(1’39”/100m)10mets
バイク 6:01:24(29.92/h)10mets
ラン 4:56:07(7:01/km)9mets
★時間 ※秒数を切り捨て、小数点以下四捨五入で計算
スイム=1時間
バイク=6時間
ラン=4.9時間
★消費(必要)カロリー
スイム 1.05×10×1×65=683
バイク 1.05×10×6×65=4095
ラン 1.05×9×4.9×65=3010
Total 7788
※小数点以下四捨五入
蓄え分を引く
脂肪(25%)1947
筋グリコーゲン(1300kcal)
肝臓(280kcal)
朝食・レース前(700kcal)
Total 4227
7788-4227=3561
必要カロリー数は3561kcal
※ジェル1個が120kcalだとすると、約30個必要
分→時間への変換式
1分=1÷60時間 (56分の場合、57÷60=0.93分※ここでは0.9で計算)