「KONAチャレンジEXPO」(2019年5月開催)から派生した、すべてのトライアスリートの「チャレンジ」を支援する学びの場《MAKES Triathlon College》(メイクス・トライアスロン・カレッジ)。
その開講を記念したプレ講座(2019年9月28日開催)から、TK(竹谷賢二さん)による『HOKA ONE ONE最新ラインアップ履き比べ分析』セミナーの内容を紹介しよう。
HOKA ONE ONE®最新ラインアップ履き比べ分析 by TK
MAKES Triathlon Collegeプレ講座《前編》
Profile
竹谷賢二a.k.a. TK
マウンテンバイク競技(XC)のオリンピアンで、現役引退後はトライアスリートとしてKONA(アイアンマン世界選手権)に 8年連続出場・完走。KONAチャレのプロジェクトリーダーとして、メンバーたちへのアドバイスを手がける。
詳細なプロフィールを見るロジカルなアプローチで、専門種目であるバイク以外の2種目(スイム、ラン)でも、メキメキと実力を伸ばし、KONA8年連続出場、宮古島大会2年連続TOP10入りなど、ロングディスタンス・トライアスロンでも国内屈指の強豪トライアスリートに成長したTK。
そのTKが、今シーズンからトライアスロンランで強くなるための最良のパートナーとして「HOKA ONE ONE®」(ホカ オネオネ)のシューズを選択した理由から、その選び方・履き分け方・履きこなし方までを徹底解説。
あわせて、ガーミンのマルチスポーツウォッチによってとれる客観的データ(ランニングダイナミクス)を参考にした、「自分にとっての最適な走り方検証」のコツを教えてくれた。
TK的「走り」の見つめ直しと、ランパフォーマンス改善
TK(以下同)トライアスロンを始めて8年。ここ3年くらいはロングでも年ごとに十数分ずつくらいのペースで成績が伸びてきて、今はアイアンマンでのターゲットタイムが9時間20分くらいになってきているのですが、最初から順風満帆というわけではなく、いろいろな課題に直面し、トラブルを経験してきました。7回出場しているKONA(※)でも、3、4年目くらいまでは、出場して・頑張って完走するのが精一杯という感じで、なかなか一筋縄ではいかないなと。
(※本イベントは8回目の出場となるKONAの2週間前に行われた)
今日のメインの話題となるランニングについては、ここ数年で大会でのランラップにして5分とか10分レベルで良くなってきています。
またその一方で、ランニングにおける脚の痛み・故障という課題にもぶつかりました。
体力的な疲労感だけでなく、脚の痛み・故障がランニングのパフォーマンスを伸ばす上での阻害要因になってきたんです。
トレーニングで走ったら脚が痛くなって、痛みが治まったら走り始めるんだけど、また脚が痛くなって・・・という繰り返しで、走っていても辛いだけだし、パフォーマンスも伸びない。ラン練習自体やりたくなくなってくる。こうした状況に陥ったのが4年前くらいの話です。
そこで、そもそも「走る」ということは何ぞや? という根本に立ち返って、イチからやり直した結果、順調にランパフォーマンスを伸ばせるようになったんです。
今回はシューズ選び・履き分けの前提として、この「ランパフォーマンスが改善するに至った流れ」から、紹介していきたいと思います。
TKも陥った「走るほど辛くなる」スパイラル
皆さん、ランニングというと、どういうイメージで走ってますか?
走りのイメージを言語化すると、例えば代表的なところでは「跳ねるように走っている」とか、「(身体の)傾きで走っている」とか「(脚や身体を)回すように走っている」といった言い方があると思いますが、どれが正解だと思いますか?
正解は全部だと思います。
最終的には、これらすべてのバランス・割合で決まってきます。どの人にも、「跳ねる」要素も、「傾むける」「回す」要素も、入っていて、これらの多い少ないは人それぞれ。
例えば、よく走るのが速い人は「跳ねるように」走っているように見えますよね。いかにもバネがあって、飛ぶように走る。こうした人は最初の要素の割合が強いですが、もちろんそれだけではなく、身体を前傾させることを利用して推進力を得る、という要素もあると思います。
自分の場合、重視しているポイントは、「あんまり跳ねないように走る」のがひとつ。前傾が深くなり過ぎボディポジションが崩れやすい傾向もあるので、「あんまり傾かないようにしよう」ともしていて、「回る」という要素を重要なキーワードとして走りの改善に取り組んだ結果、パフォーマンスを向上させることにつながりました。
それ以前は、「ランニングはもっと跳ねるように走れる、バネがないとダメだな・・・」と思って、頑張って走っていたのですが、結果、脚が痛くなり、足底腱膜炎とかアキレス腱炎、ふくらはぎまわりの痛みや、ヒザの痛み、鵞足炎(がそくえん)などの故障につながってしまいました。
それらをかばってまた別のところが痛くなり、脚のいろいろなところが順番に痛み、水がたまって、という悪循環に・・・。
そこで自分の中で決めたのは、(ランニング動作が)ちゃんとできないうちは、速い人のマネをしないこと!
「傾く」ということに関しては、自分の場合(バイクの競技経験から)腸腰筋が割と強く働いて・緊張してしまうので、その強さに引っ張られて前傾がキツくなってしまいがち。その傾きを少し抑えて、まずは(上体を)垂直に近いように保つ意識から始めました。
そして、「回る(回す)」というワードを最重要視していて、
例えば、着地して・立っているほうの脚(立脚、支持脚)で跳ねるようにして進むのではなく、この脚は「軸足」ととらえて走る。何が回るかというと、軸となる脚以外、股関節から上の身体が回って進む。
仮に右脚で着地したら、それを軸にして、ボールジョイント状の股関節を経て身体が回って、逆の脚が振り出されて、今度は左脚が軸に・・・という繰り返しで進んでいくイメージ。
脚が着いたら、その軸足を基点に回る、この左右の切り返しを素早くリピートしていくというアプローチで、自分の走りを改善していきました。
こうした走りだと、「最高速」にはなかなか結びつかないんですが、アイアンマンで私が今走っているくらいのスピード域ならば、この「回転」を意識した走りで十分カバーできるかなと考えています。
これが「キロ3分半以上」とか、さらに速いスピード域になってくると、おそらくもっと「跳ねる」ような走りの要素、バネも必要になってくるのかなと思いますが。
ガーミンを使って走りを判断
「上下動比」でロスの大きさをチェック
こうした点を、私はガーミンのマルチスポーツウォッチを活用して把握・判断しています。
ランニングダイナミクスポッドを使うと、走りの歩幅(ストライド)、上下動、上下動比というのがわかります。
上下動比は、前に延びる歩幅に対して、どのくらい上下動したか、という割合。仮に「0%」なら、完全一致で前にしか進んでいないということですし、10%、20%というと、その分だけ前に進むのではなく上にいってしまっているということになる。
0%ということは、まずありえないので、実際には少なくてひとケタ%くらいがいいところ。10%になってしまうと大分ロスがあると考えていいでしょう。
得たいのは前に進む歩幅。より大きな歩幅で、上下動(比)が少なく、フィニッシュまでたどり着きたい。
この歩幅には、ただ脚(股関節)を前後に開いた幅(関節の可動域)だけでなく、前に進むスピードによって得られる慣性によって、空中で前に進む幅というのもプラスされています。つまり、ある程度、速く走らないとストライドは延びない。
速度がある程度出てくると、骨盤が真正面を向いた状態のままよりも、軸足を基点に前に回したほうが、次の脚がより前に振り出せて、ストライドを延ばせる。
ピッチを上げていくことでもスピードを出すことはできますが、ピッチが上り過ぎても息が上がるので、スピードを上げていくにも限界がある。
そうしてストライドを延ばしていくには、脚を素早く「回す」(振り出せる)ことが必要になるんですが、この素早い脚の振り出しを助けてくれるのがカーボンプレートなのです(※「カーボンX」の良さは 後編記事参照)。
余計な「上下動・左右動」を抑えるために
着地の際に身体が沈み込み過ぎてしまうと、上下動が大きくなるという要素も、もちろんあります。一歩一歩、身体が沈みこんで・持ち上げて・・・という繰り返しのような走りはマズい(脚への負担は当然大きい)ですし、こうした上下動には左右のブレも伴いがちで、無駄な負担がさらに大きくなります。
シンプルに考えて、走って前に進んでいるときには、重心が真っすぐ前(進行方向)に・水平に進んでいるのが一番効率的ですが、これが上下や左右にブレていると、前に進まない時間がある分、遅さの要因になります。
もちろん、上下動はある程度は必要です。上に身体が浮いている時間がないと、脚を前に振り出す動作を入れる時間もとれないですから。
じゃあ、それがどれくらいなら適正か?
この「適正な上下動」を表すの(見極められる指標)が「上下動比」なんです。
これ(上の画面)は私が2㎞、キロ5分半くらいのペースでウォーミングアップしたときにとってみたデータ(歩幅・上下動比・上下動)です。
次は少しだけペースを上げてキロ5分くらいで走ったときのデータで、上下動はあまり変わらず、歩幅が少しだけ延びてますね。スピードが上がった分、歩幅が延びて、その分、上下動比は下がる。
次はキロ4分半くらいのペース。
上下動は2㎜ほど大きくなりましたが、ほんのちょっと変わったくらい。
さらに次は、4分くらいのアイアンマン・レース想定ペースで走ったときのデータ。 歩幅が1・5ⅿ近くまで延びましたが、上下動は増えていません。
つまり負担の要因になる上下動は増えていないけれど、スピードは上げられているので、結果的に上下動比は下がっている。これが、いわば歩幅・上下動のバランスが整っている状態というわけです。
レースでスピードが落ちても、良いバランスで走れるチカラ
このバランスが整っている状態をキープできればいいのですが、一般的にトライアスリートが陥りがちなのは、レースのランパートでスピードが落ちてしまったとき、焦って、ムダに上下に跳ねて(上下動が大きくなって)、上下動比率が上がってしまうパターン。
レースで遅くなったときも、この上下動比が悪くならないようにしたい。
つまり、レースで想定できる「自分のトップスピード(ペース)」「平均スピード」「最低スピード」それぞれの走りで、良い比率(バランス)で走れるようにならないと、(刻々と状況が変わる)レースでちゃんと走れないわけです。
スピードが落ちたときにも、上下動を増やさないように前へ進む――これって普段もやっている動作ですよね?そう「歩く」という動作に近いんです。遅いスピードで走る、というよりも、実は「もっと歩いたほうがいいんじゃないか?」故障のスパイラルに陥った後に、私自身そう考えたんです。
アイアンマンのランでは、キロ3分半で走れるわけでもないし、まずは速く歩ければいいんじゃないか、と。そして、自分のアイアンマンのランでのレーススピードを「歩くように走れたら、この無駄な上下動も減るんじゃないか?」、そう仮説を立てて、走り方を変えていきました。
注意したポイントは、上下動・左右動を減らすこと、身体が(前、以外の)ムダな方向に動くことをなるべく減らすこと。
身体が浮いてしまうと着地時の衝撃が負担になって、着地ごとに「あー着地嫌だ~・着地嫌だ~」というのをくり返していたので、なるべく着地ごとの衝撃を受けないように、と考えて走り方を変えました。
歩くように速く動ける(前に進める)ようになる練習ということで、実際、「早歩き」も練習してみました。
跳ねないように早歩きしていると、やがて脚が追い付かなくなってくる。
脚が棒状に伸びている状態では、脚を早く前に振り出せなくなってくる。
そこで、ヒザを少し曲げてコンパクトに脚を振りやすいようにしてみると、やがて「ジョグっぽく」なってきて、こんどはピッチも上がってきます。
ピッチが上がって、脚の回転が上ってくると、スピードも上がってくるので、足を着き続けているのがムダになってくる。そこで一旦ピッチを上げるのをやめて、のびやかに脚がついてくるようにしてみると、「ゆったり走るランニング」になってきました。この「ゆったり走るランニング」で今ならキロ4分半とか、そのくらいのペースは出せるようになりました。
この「ゆったり走るランニング」から、さらにもう少し、体力的な要因を増やして、左右の脚を切り返す力を加算していくと3分半ペースくらいで走れるようになるのですが、この脚を切り返す力を足していくというのは180㎞バイクに乗った後はできないので、アイアンマンの実戦では使えない。
なるべく普段はこの(ある意味、余計にチカラを使ってスピードを上げる)動作はやらないようにして、それ以前の「ピッチなりに出るスピードで前へ進む走り」を磨いていき、これが実際のレースで出せるランスピード=レーススピードを上げていくトレーニングになりました。
「これならレースのランパートでもできる」という体力負担の範囲での走りを突き詰めていく上で、「ランニングダイナミクス」を表すガーミンの客観的指標は非常に重要で、大いに役立ちます。
「1㎞✕10本」で、今ある「走りの動作」で出せるスピードをチェック
ランニングダイナミクスを指標にしたトレーニングメニューの一例を紹介しておきましょう。
以下は先日、陸上トラックで1㎞✕10本のインターバル(大体5分サークル)をやってみた際のデータです。
このトレーニングは、今の走りの動作(疲れていない状態)でどのくらいのスピードが出せるか、をチェックするメニューです。
ガーミンだと、1kmごとのラップと、平均心拍数、トレーニング効果があるかなどが出てきます。
これは私のレースペースよりも少し速いペース(平均心拍150拍/分前後)なのですが、
ランニングダイナミクスをチェックしてみると(下の画面)平均ピッチが182/分くらいで、平均ストライドが1・5mくらい。平均上下動比が5・1%、上下動が7・8㎝ですので、レースペースを超えたスピードでも走りがそんなに崩れていないのがわかります。
自分の場合、キロ5分~3分半くらいまでは、これと同じくらいの上下動で走れます。つまり、スピードが遅めでも、速くても、跳ね過ぎず、レースペースと同じくらいのバランスで走れるわけです。
前に触れたとおり、普段のレースペース以外のさまざまなスピードで、こうしたバランスが再現できるように検証しておくと、レースでの実戦的な走力を高めることができると思います。