このプロジェクトのメンバーが目指している、ロングディスタンス・トライアスロンの世界最高峰レースIRONMAN World Championship(通称KONA ※開催地が米・ハワイ島コナであることによる)。世界中のトライアスリートたちが憧れる、その舞台は、なぜ、そこまで特別な場所たりえるのか?
2018年10月13日に開催された40周年記念大会で7年連続7度目のKONA完走を果たしたTKこと竹谷賢二さんが、今回のレースを振り返りつつ、自らにとってKONAが特別な場所であり続ける理由を語った。
Profile
竹谷賢二a.k.a. TK
マウンテンバイク競技のオリンピアンで、現役引退後はトライアスリートとしてKONAに 7年連続出場。KONAチャレのプロジェクトリーダーとして、メンバーたちへのアドバイスを手がける。
詳細なプロフィールを見るトラブルも飲み込み、
目標をクリアした7度目のKONA
―今回のKONAは、事前にSNSなどでも宣言していた目標タイムどおりという、お手本のようなレースでしたね。
練習したことはすべてできたので、これ以上ない出来で、今から「今回とまったく同じレースをもう1回再現してみて!」と言われても難しいくらい。「あそこをもっとこうしたい」「こうすればよかった」とか、そういう点がない。そのくらいのレベルではできました。
―一番には3種目通じて集中できたのが大きい?
そうですね。ほぼ一瞬も余計なことを考えず、今やるべきこと、目の前のことを一つひとつ、ちゃんとやる。バイクはターゲット(ペース、スピード、パワー等)よりオーバーなのか、アンダーなのかしっかり把握して、ランの最後は気合い! それをきっちり全部やりきれた。
これはKONAに限ったことではありませんが、波や潮、風、暑さとかコンディションなど、自分でコントロールできないことに対して、ペースを上げ下げしたり、対応はするけれど、それ以外は自分でやるべきことをちゃんとやるだけ。
―1週間前のMTBイベントのジャンプ着地で転倒し、そのダメージが残っていたようですが、その影響は?
全体的に身体をひねったりしているのですが、部位で言ったら右胸と左脇腹の肋骨まわりを痛めてしまいました。今(※KONAのレース翌日)でもまだ痛くて、深い呼吸がしづらく、腰が深く曲げられないので、スイム、バイクのフォームやランニングでの呼吸などにも影響はあったと思います。(今回のKONAでの目標を)下方修正しようかとも思いましたが、結果的には(目標設定は変えずに)そのまま臨みました。
痛みよりは、動きがあまり良くないほうが問題だと思っていました。動きが良くないと、ごまかすような動作になってしまうから、練習でやってきたものと違うパフォーマンスになってしまう。それはマズいなと・・・。
(MTBイベントでケガをした翌日の)月曜日、朝、起きたら身体が動かなくて、車にも乗りづらいくらい。鍼灸院に寄ってから成田空港へ行ったんですけど、「ん~、微妙!」という感じ。今まで持っていったことがないけど(KONAに)ストレッチポールなどを持参して、体調を整え、少し(身体を)動かしていたら、なんとなく日に日に動きが大きくなってきた。
そりゃあ、欲を言えば、(事前にトラブルが)何もないほうがいいし、そのほう がもっとパフォーマンスは高かったと思うんですが、そのトラブル込みでも、自分が 2カ月前に想定したとおりのタイムでフィニッシュできました。わずか5秒ですが、想定を上回ることもできた。
さすがに最後はペースを上げなければいけないくらいギリギリでしたけれど、せっかく(目標タイムを)決めたから、それを守ろうと思って、集中して、最後の花道もラストスパート!(笑)
TKの2018 KONA
結果 | 想定 (目標) |
昨年 | |
---|---|---|---|
スイム (3.8km) |
1:13:16 | 1:09:00 | 1:13:46 |
バイク (180 .2km) |
4:47:04 | 4:51:00 | 4:55:07 |
ラン (42.2km) |
3:29:16 | 3:25:00 | 3:33:51 |
総合タイム | 9:37:55 | 9:38:00 | 9:51:36 |
やっと冷静にレースできるようになった
KONA中学1年生!?
―今回のように、レース直前に何かあった場合も、冷静に対処されていますが、そのポイントは?
まず冷静に自分の状況を把握して、「やる」か「やらない」かを判断する。「やる」なら「ベストに対して、どこまでいけるか?」「できることは何か?」を考えて、できることを粛々とやるしかないですね。できないことはできない、と割り切って。
―レース前、「集中できていれば、レース中に痛みも感じないはず」とも仰ってましたが。
レース中はアドレナリンも出ているでしょうし、やるべきことに集中できていれば、ある程度の痛みは感じずに済むだろうと。逆に、レースに集中できていなければ痛みを感じるだろうなとは思っていました。
実際レースでは、ペース配分なども考えて、痛くない程度に抑えてはいましたね。(深い呼吸もしづらいので)息が上がるとまずいですし。そのあたりは、もしかしたらオーバーペース防止につながったのかもしれないですね。今回は風もあまり吹かず、スピードも比較的出しやすいコンディションではあったので。
7年間KONAのレースに出てきて、毎年良かったり・悪かったり、いろいろなパターンがあって、そのコントロールが難しいのがKONAだったんですけど、昨年、何とか良いカタチでレースできて(※9時間51分36秒でKONA自己ベスト更新。日本人トップで完走)、「あ、これは(コントロール)できるな」という手ごたえはありましたね。
KONAにおいても、ようやく、宮古島やケアンズと同じように冷静にレースに取り組めるようになりました。KONA挑戦も7年目ということで、ちょうど小学生が中学生になったくらいの感じですね(笑)。
2012年、1年目のTKが直面した
世界最高峰のリアル。
―KONAチャレ・メンバーで、今回、初めてKONAに出場したアッキーこと皆川亜紀子さんは、「ご褒美レース」かと思って夢見心地で臨んだレースで、レベルの高さに驚き、全力を出し切れなかったことを悔やんでいましたが。
まぁ、1年目ってそんなもんですよ。最初から全部うまくいかないし、後悔することがあるとしたら、今回を踏まえて、これからどうするか? ですね。「あぁ、KONAはすごかった、もう全然レベルが違う。まわりは盛り上がっているけど、私は全然通用しない・・・」じゃあ、どうしますか? ということでしょう。
「また、来たい」として、じゃあ、今度はここで何をするのか? まず出場は1回果たしたけれど、次も来るだけでいいのか? もちろん、それでもよければ、それでいいんですけれど、世界最高峰の舞台に来て、「頑張らない」じゃあもったいない。
―TKの1年目は、どうでした?
宮古島でもケアンズでも、どこでやってもトライアスロンはトライアスロン。自分のすべきことをするだけだ――と思っていたんですが、それらほかのレースなら、頑張れば上位で走れるけれど、KONAではバンバン抜かされるし、抜いても抜いてもキリがない。自分がとことんやらないと、どんどん落ちていく。
この現実は、実際KONAに出てみて初めて体感できたことでしたね。夢の舞台には、さらに次のステージの現実があったというか。
もちろんこれは自分の考えですが、本当に自分自身が試され、自分のもっている能力がちゃんと計れる場としてKONA以上のレースはない。
だから、ここが自分の行きたい場所だし「もっとやりたい!」と思ったわけです。