KONA(アイアンマン世界選手権)で2年連続シェアNo1(2017・2018年)、3✕KONA王者ヤン・フロデノも今季から新たなパートナーとして選んだトライアスリート注目度No1のランニングシューズブランド「HOKA ONE ONE®」(ホカ オネオネ)
KONAチャレ・プロジェクトリーダーにしてHOKA ONE ONE®のブランドアンバサダーも務めるTK(竹谷賢二さん)が、今年(2020年)に発表されたニューモデルも含めた最新ラインアップから、
トライアスリートが特に注目したいモデルについての特徴と、トライアスリート的な選び方・はき分け方のポイントを解説する。
About 「HOKA ONE ONE®」
HOKA ONE ONE®(ホカ オネオネ)はアイアンマンシリーズ及び、KONA(アイアンマン・ハワイ)の公式シューズ。大会公式ブランドとしてランコースのネーミングライツを得ており、2017・2018年は2年連続でランニングシューズシェアNo1の座を占めている。TKのみならず、アイアンマンの現役世界王者ヤン・フロデノ(写真下)や、KONAレジェンドのデイブ・スコットも認めるトライアスリート注目度No1のシューズブランド。
■ブランド公式サイト www.hokaoneone.jp
サラ足で、キレイに走れる時間が短い
トライアスロンのランにこそHOKA ONE ONE®を
前述のブランドプロフィールのとおり、カリスマ的人気を誇るヤン・フロデノが今季から新たなパートナーとして選んだことで、人気&注目度ともに世界を席巻しているHOKA ONE ONE® だが、
なぜ、ここまで多くのトライアスリートの心をつかんでいるのか!?
まずはブランドアンバサダーとして、日々、その最新ラインアップをはき分けているTKにあらためてトライアスリート的に見たHOKA ONE ONE®ブランドの魅力から語ってもらおう。
TKまずHOKA ONE ONE®のシューズというと、見た目にもインパクトの大きい、ソールの「厚さ」からくる縦方向のクッション性にばかり目がいきがちですが、それとあわせてソールの幅だったり・長さ、面積の広さによる「安定性」も高いのが特徴です。沈み込むことによるクッション性だけでなく、ソールがたわむことによるクッション性もある。
現在は、いろいろなタイプのモデルが出ているのですが、この厚みと幅の広さが相まっての安定性と快適性が、HOKA ONE ONE®の全モデルに共通している点であり、ブランドのアイデンティティかなと思います。
厚底、厚底と「厚さ」ばかりが注目されてしまいますが、この厚みはあくまでも安定性と快適性をもたらし、疲労を減らして・安定して速く走る――ということを目的とした、ひとつの手法であって、厚さありきではない。
その目的に対する手法として厚さ以外にもメタロッカーテクノロジー(※以下ロッカー)に代表されるソールの「形状」や「幅」「長さ」「素材」等々でさまざまな手法がとられています。
定番のCLIFTON(クリフトン)やBONDI(ボンダイ)以降も、CARBON X(カーボンX)やCLIFTON EDGE(クリフトン エッジ)と、毎回新しい手法がとられたニューモデルが出てくるたびに、「こうきたか!」というふうに感心させられるところで、
特にフレッシュな脚でキレイに走れる時間が短いトライアスリートにとっては、この安定性の高さは、かなり有効なメリットです。
客観的なスピードではなく
自分の中での「速さ」で選べばいい
私(TK)の場合は(ブランド・アンバサダーとして)さまざまなモデルを実際使って試せるので、ペースや走り方、コースによって、1日に何足も別のモデルをはいてみる、ということもあります。
たとえば2㎞ごとに(モデルを)はき替えて、10㎞、計5足を使い分けて走ってみたりとか。
走り方の練習として私は、歩く、速く歩く、ゆったり走る、走る、速く走る――という5段階のモード切り替えをしますけれど、それぞれの走り方で、どのモデルが一番自分にとって合っているか比べてみたりとか。
HOKA ONE ONE®のシューズラインアップは、これまでのランニングシューズブランドのように「キロ★分~はこのモデル」といった分類はしていませんが、
私も走るスピードでシューズを選ぶというよりは、その人の中での速さの「程度」で、モデルをはきわけていいと思います。
その人の中で「速い」から「ゆっくり・ゆったり」まで、10㎞もつ速さとか、フルマラソンの距離を走り切れる速さとか、いろいろあると思うんですが、
たとえばキロ5分が「ゆったり」だという人はボンダイでいいし、「速い」と思う人はカーボンXでいい。同じキロ5分でも、その人の中の速さに応じて意味合いや走り方が変わってくるので、客観的なスピードで選ばなくていいんです。
自分にとっての「速い」「中くらい」「ゆっくり」とざっくり3つのモードがあるとしたら、それぞれのモードに合ったシューズがひとつずつあればいいんじゃないかなと。
あとは、ターゲットレースを基準にして考えると、費やす「歩数」で選ぶという考え方もあると思います。
つまり、同じ距離でも2時間で走り切り人は「歩数」が比較的少ないですが、3時間、4時間とより時間がかかる人は当然、歩数が多くなる。それだけ着地の回数・時間が長くなるわけで、その分、速さよりも、一歩一歩の負担を少なくするほうの優先度が高くなりますよね。
そうなると薄いソールよりも、厚手のソールのモデルを選ぶほうがいいんじゃなか、とか。
そうした考え方、選び方もあるかと思います。
ロッカー形状の強弱や
アッパーの素材感も選ぶ基準に
HOKA ONE ONE®のシューズのもうひとつの特徴であるロッカー形状が強い・弱いといった性格も、モデル選びの上での、ひとつの基準になるかと思います。
ゆりかごのように転がるようなソール形状=ロッカー形状の強弱がモデルによってかなり異なりますので。
ロッカー形状が強めのクリフトンか、同じくらいのレンジのモデルでも、ロッカー形状が比較的弱めのリンコン(RINCON)にするか、とか。同じカーボンプレートの入ったモデルでも、ロッカー強めのカーボンXか、それほど強くないカーボンロケットか、といった比較になります。
ここは人それぞれの走り方の違いや、好みによって、どれを選ぶべきか分かれてくると思います。
トライアスリートにオススメの6モデル+1
TKレビューでチェック!
TKソールの厚みや面積の広さによるクッション性や安定性、ロッカー形状による足運びのしやすさなど、HOKA ONE ONE® のシューズの特徴のすべてを兼ね備えた、基準となるモデルです。
比較的軽量でもあり、アッパーの質感も高く、カカトやアーチ形状のサポート機能もしっかりしている。いずれかの機能に特化させたわけではない、バランスのとれた一足。
はじめてHOKA ONE ONE®のシューズを試してみたい、となったときに、「まずはいてみるとしたらコレ」というど真ん中なモデルでしょうね。
トライアスロンのレースで言ったら、51.5㎞からロングまで幅広く対応できるでしょうね。
ソールの補強材などもしっかり施されていて、耐摩耗性も高く、比較的長く使えると思います。
「クリフトン7」にバージョンアップして、変わった点はアッパー部分。カカト部分の形状が、これまでループ状のヒモでカカトを引っ張り上げるような形状だったものが、(ベロ状に)縦に長くなり、靴ベラのようにカカトを滑らせて足入れできる形状に。
はきやすい形状になったのと同時に、アキレス腱までカバーしているので、カカトまわりの安定感はより高くなっています。
カカトが長くなった部分が変に気になることもなく、スッと足入れできるようになっており、トライアスリート的には51.5㎞のレースなどで素早くトランジションしたいときにもメリットになると思います。
TKわかりやすく評するなら「クリフトンの軽量版」。クリフトンと比べるとソールの厚みはほぼ同じで、ロッカー形状の程度もほぼ同等なのですが、こちらのほうが比較的軽量で、ソールの補強材も少なく、アッパーの素材も少し薄め。イメージとしては、クリフトンのアッパーのゴージャスと言うかラグジュアリーな面をそぎ落として、軽量性やクッション性を残した感じですが、
生地部分も少なめな分、トライアスロンでの通気性とか排水性はこちらのほうが高いので、夏場、水をかぶりながら走るようなトライアスロンでの使用には向いているモデルだと思います。
冬場のフルマラソンも含め、ランニング全般として考えるとクリフトンがHOKA ONE ONE®のロードランニングシューズの「ど真ん中」なモデルだと思いますが、夏場がハイシーズンのトライアスロンで考えると、リンコンが「ど真ん中」なモデルじゃないかと思えるくらい、トライアスリートにオススメのモデルですね。
TK今年新たにリリースされたクリフトンの別バージョンで、クリフトンよりはロッカー感は抑えられたイメージ。
その代わり、ソールが長く・広くなって面積がさらに増した分、着地のスイートスポットがたくさんあるというか、ストライクゾーンが広いというか、いろいろなところで着地できる。どこで着地しても受け止めてくれるというのが最大の特徴ですね。
同じサイズのクリフトンと比べてもこれだけ広い(下の写真=左がクリフトン エッジ)。
ミッドソール部分が(クリフトンよりは)気持ち薄く感じられ、マシュマロ感も少なめですが、その分、ソールの反発性が高く感じられます。
ソールの厚みから生まれる、極端に言うとスプリングのバネのような反発性がクリフトンだとしたら、こちらは板バネのような、ソールがたわんだり、ねじれたところから元の形に復元するときに生まれる反発力が、よりスムーズな走りをサポートしてくれるという印象。
トライアスロンのレースで選ぶとしたら、たとえば地形がうねっているとか、歩道や公園のような路面がスムーズでない凸凹のあるようなランコースにも向いてそうです。
あとは走りのフィーリングというか、今日はパン・パン、テンポよく走りたい、というときにはクリフトン エッジ。キレイに着地してコロン・コロンとロッカー形状を生かしたような足運びで走りたいときはクリフトン――といったはき分けもできるかなと。
TKクリフトンに対して、ソールの厚みによるクッション性やメタロッカー感をさらに強めているのがボンダイ。ソールだけでなく、アッパー部分も含め、足の安定感がしっかり確保されています。
クリフトンでも、ほかのブランドのシューズと比べると、そのあたりの安定感はかなり高いですが、それよりもさらに生地素材も厚手で、しっかりサポートしてくれるシューズ。
古傷もちとか、走り方にクセがあって、それを直しながらしっかり走り込みたいという人にもうってつけのモデルです。
脚への負担が少ないという意味では、リハビリ期間のランニングにも使えると思います。
トライアスロンのレースで言うなら、ランパートがかなり長丁場になり、頑張らなければいけない、という人にもオススメ。
ソールの補強材も含め、つくりがしっかりしている分、耐久性も高いので、比較的長く使えるモデルだと思います。
また、クリフトンのソールのマシュマロ感が、そのまま大きくなったのがボンダイと思われがちですが、ボンダイのソールはボリュームがある分、意外とコシがあって、ブニャブニャと柔らか過ぎる(沈み込み過ぎる)感じでもない。
ボンダイ7にバージョンアップして、少し軽量になりましたが、良い意味で完成されたモデルなので、ボンダイらしさはそのままに、微調整が加えられているイメージです。
前述のようにメタロッカー感は強いので、私自身は、カーボンXをはいて走るときのような、重心を前に、シューズにグーっと乗り込んで走るような走り方を、ゆっくりとした走り(ジョギング)で確認したいときなどにも使っています。
TK私がアイアンマンも含めたレースや、自分の中で「速い走り」のときにはいているのがカーボンX。
同じしっかり接地するのでも、クリフトンやボンダイのように、ソールにグーっと乗り込むような感じではなく、接地時間を短くできるので、ロングのランなどで疲れた状態のときでも「ピッチを上げやすい」というメリットがあります。
カーボンシューズというと、カーボンプレートが板バネのようにたわんで、その反発力をスピードに変えるというイメージをもたれるかもしれませんが、HOKA ONE ONE®の場合は、独自のロッカーテクノロジーを生かすためにカーボンプレートの剛性を使っています。
ボンダイやクリフトンが、ソールの変型を生かしてロッカー感を出していくのに対し、カーボンXはカーボンの剛性を生かしてロッカー感を強めていくので、接地時間が圧倒的に短くなります。
カーボンプレート入りのシューズだから、相当スピードがないとはきこなせないと思われがちですが、そこはHOKA ONE ONE®のシューズらしく、クッション性も、ロッカー感もあるので、走りやすく、そこまでスピードを求められるモデルでもないのが特徴です。
スピードよりも、ピッチをある程度適正な範囲内で保てれば、問題なくはきこなせると思います。
TK今年リリースされたカーボンX SPE。カーボンXとの違いのひとつは、アッパーのサポート感の違いです。
たとえばカカト部分を見ると、カーボンXはほとんどなにも入っていない薄い布状なのに対し、SPEは薄手ながら樹脂の補強が入っていて形状が安定するようにできています。
はき口もカーボンXが、いわゆるベロのあるタイプになっているのに対し、SPEは一体型のソックス型になっていて、アッパーとの一体感や、ヒールの安定具合はSPEのほうが高い。
カーボンプレートが入っているモデルは、動きがズレたときにソールがたわんだり変型してズレを吸収・補正してくれる余地が少ないので、その分、自分の足が動いてしまいます。
ソールのたわみがごく小さいので、ソールの摩耗の仕方を見ても、走り方によってかなり偏っている。私の場合は、カカト側は外側、つま先側は親指側(内側)が、わかりやすく摩耗してくる。
そうしたメカニズムで、足のほうが動いてしまう場合、少し横滑りするような感覚があるのですが、SPEのほうは、アッパーのサポートが少し強くなっている分、その横滑り感が若干抑えられます。
すでにカーボンXを使っている人で、カカトのあたりをはじめ、足の不安定さを感じている人や、初めてHOKA ONE ONE®のカーボンプレート入りモデルを買ってみようという人で、そうした安定性に少し不安がある人にもオススメですね。
もうひとつのカーボン入りモデルを
オススメ6モデルに入れない理由
TKカーボンロケットは、反発性の高いカーボンプレートの入ったモデルなんですが、同じカーボンプレート入りシューズの「カーボンX」と比較すると、ソールも薄手で、ロッカー形状も弱め。カカトのサポートもあまり強くはない。幅も比較的狭く、HOKA ONE ONE®の中でもオーソドックスなランニングシューズに近いつくりです。
トライアスロンの場合は、速さのためにいろいろな要素を削る必要があまりないので、トライアスロンのレース用シューズとして選ばれることは少ないと思います。
一般のハイスピード寄りのランニングシューズよりは、幅も厚みも安定感もあるので、トップアスリートや、51.5㎞、ミドルなどで、最後までラン単体のようにちゃんと走り切れるという人には向いているかもしれませんが、私自身も、アイアンマンなど長距離のレースではいたことはありません。
私の場合、主にはトラックでのインターバル走とか、フレッシュな状態で、走りが崩れない短時間のラントレーニング、自分の中でのハイスピードな走りの練習をするときに使っていますね。