KONAチャレメンバーのみならず、トライアスリートなら誰もが一度は到達してみたいと憧れる世界最高峰のロングディスタンス・トライアスロンKONA(アイアンマン世界選手権)。
この夢舞台に一度どころか何度も立ち、闘い続けているエイジグルーパーたちは一体、どんなきっかけでトライアスロンを始め、何を想いつつKONAに挑み続けているのか?
いわゆる「KONA常連」たちの強さの源泉に迫るインタビュー企画、初回はスポーツメーカーのマーケッターとして第一線で活躍しつつ、トライアスロン歴8年にして4度、KONA出場を果たしている若山源二朗さん。4度目のKONA、レース前日に現地で話を訊いた。
Profile
プロフィール
わかやま・げんじろう
トライアスロン歴8年。2015、2016、2017、2019年KONA Finisher。得意種目はスイム(大学まで競泳の1500mを専門種目にしていた)。レースではつねにスイムから先行し、バイクパートで順位を落とさず、最後のランでいかに粘れるか? を戦略としている。練習時間は週10~15時間。3週間ハード+1週間イージーを基本に、コーチとともにトレーニングプランを組み立て、KONA予選・本選に向けた身体をつくっていく。仕事はスポーツブランドのマーケティング担当。二児の父。1975年、東京生まれ。
デビュー後1年でロングへ。
最初は「地獄」だった・・・
―KONAには今回で通算4度目の出場となりますが、トライアスロン自体を始めたのは、いつから、何がきっかけで?
若山始めたのは2010年から。昔から「いつかトライアスロンを」と思っていたわけでもなかったのですが、知り合いが自転車を貸してくれて、「家族で大磯ファミリートライアスロン(スプリント)に、一緒に出ようよ」という感じで誘われたのが、きっかけ。
学生時代、1500ⅿを専門種目とするスイマーだったので、水泳はなんとかなるし、自転車、ランニングくらいなら全然できるだろうと思って気軽に参加したんですが、ランで両脚がつって、これはちゃんと練習しなきゃダメだなと。
その後も沼津や昭和記念公園など、オリンピックディスタンスより短いレースに出たのですが、最初のスイムこそトップのほうで上れるものの、その後、バイク、ランで抜かされ続けるということに屈辱を覚えて、トライアスロンにハマっていき、翌年2011年には佐渡Aタイプでロングデビューしていました。
―デビュー後、すぐにロングに移行したのは、なぜ?
若山トライアスロンをやり始めて(トレーニングのために)最初に入ったチームが「チームY」で、そこではもう、ロングがすべてというか、「トライアスロン、始めたからにはロングやるでしょ」という既定路線みたいなものがありまして(笑)
すぐにチーム指定レースの佐渡大会(Aタイプ=スイム4㎞/バイク190㎞/ラン42.2㎞)に出ることになったんですが、最初のロングは地獄でしたね。「いつ終わるんだ、これ・・・」という。
初めてのKONAで感じた「感動」と「未達感」
―そして、2015年に初めてKONAへ。
若山この年も、偶々Luminaに取材してもらったのですが、初めてのKONAは、もう最高に楽しかったですね。
出ている選手のレベルも高いですし、イベント全体がしっかりオーガナイズドされているところと、ボランティアの素晴らしさにも感激しました。
ただ、自分のレース自体は、すごく達成感がないというか、満足できないレースに終わってしまったんです。実力的にも、体力的にも、全く歯が立たなかったので、「また絶対に帰ってくるぞ!」と誓った。
この初回のKONAで達成感がなかったので、(その後もKONA挑戦が)ずっと続いているんだと思いますが、今のところ、順位もタイムも確実に上がってきていますね。
コーチをつけるという“世界標準”の意味
―トレーニングはすべてチームYで?
若山最初にKONAの権利を獲るまでは、チームのメニューを基本にしつつ、自分ひとりで練習することが多かったんですけど、実際、初めてKONAのレースに出たときに、「このままじゃダメだな」と痛感しました。
現地で、ほかの海外選手らといろいろ話したんですけれど、彼らの大体8割くらいは、みんなコーチをつけている。
オンラインのプログラム提供や、フィジカルの直接指導など、カタチはどうあれ、何かしらの指導は受けている。やっぱり世界標準はコレなんだなと。
KONAに限ったことじゃないですが、仕事柄(海外スポーツメーカーのマーケティング担当)もあって、海外の大会遠征では、できるだけ、ほかの国の選手とよく話して、「世界のトレンドはどこにあるのか」ということを知ろうと努めているんですが、
海外はやっぱりコーチをつけるということと、トレーニングの質を高める。むやみに量をやるのではなく、質と量の両方を求めていくというのが、スタンダードだなと感じました。
選ぶべきは海外のコーチング、それとも日本人コーチ?
―今はやはり海外のオンラインコーチングなどを受けているんですか?
若山平田文哉さんのパーソナルコーチングを受けています。
チームYのメンバーにはマーク・アレンなど、海外のオンラインコーチングを受けている人もいるのですが、僕はそれよりも日本人のコーチで、ちゃんとコミュニケーションをとれる人のほうがいいかなと。
基本的に週1回のメールのやりとりがメインで、月曜日に主にバイク・ランのトレーニングメニューが3つ送られてきます。これと、自分で考えられるスイムのメニューと合わせて、1週間でやることを組み立てていくんです。
「今週はバイクのロングライドを土曜日午前に荒川で・・・」とか「今週は平日に出張が入るから、週末にボリュームを寄せて・・・」というふうに、
会食や出張など仕事の予定も踏まえて、自分でやるメニュー・内容を組み立てて、そのプランに対して実際、できた内容を加えたものを、翌週明けの月曜日にコーチへフィードバックします。
月曜日の午前中にフィードバックを送ると、午後にはまたその週のメニューなどが返ってくる。お互い会話するのは、1週間にその1回だけです。
こうした一連のやり方が、僕にはすごく合っている。
平田さんは、できなかったことに対して、あんまりネガティブなことは言わず、何かの都合で予定のメニューができなかったとしても、「超回復できましたね」とか(笑)。そうした感じで、やり取りしていく中で、人としてのフィーリングもすごく合ったので、その後も指導をお願いしています。
それに、よく海外のオンライン・コーチが言うように、週25時間とかいったような量のトレーニングを我々(日本人のエイジグルーパー)がこなすのって、かなり無理があるとも思ったんです。
僕自身、KONAに向けた準備の中で、お盆休みとか比較的まとまった時間のとれるときに、そうした量のトレーニングをやってみることはありますが、基本的には、そういう量の練習は続かないし、やったとしても擦り切れちゃうというか、嫌になってしまうので。
―若山さんは英語でのコミュニケーションには長けているから、海外のオンラインコーチングなどをいろいろ試しているものと思い込んでいたので、ちょっと意外です。
若山パワーなどの詳細なデータを基にトレーニングを進めるというのが、実は意外と苦手で、コーチの感覚に頼るほうがやりやすい、というのもあります。
KONAチャレは詳細なデータを計測していてすごいなと思うんですが、自分の場合は、結構、平田コーチに「今週はこんな感じだった」といったように、感覚的に報告していることが多いですね。
この4~5年、一緒にやっていて、ピークのレースでは良い結果が出ているので、今後もトライアスロンを続けていく上では、平田さんにコーチングをお願いしようと思っています。
重要なのは細かな積み上げと
客観的な「進捗管理」
―KONAを目指していくには、やはりコーチングは有効?
若山昨日(※KONAのレース前々日)も突発的に海外との電話打ち合わせが夜中まで入ったりと、仕事上、いろいろ予定外に対応しなければならないこともあって、確たる予定が立てにくいのですが、
そうは言っても(KONAに挑むなら)ある程度、計画性をもって、日々積み上げていくしかない。細かいパズルをつくっていくような作業になるかなと考えています。
ただ、その「進捗管理」は、自分だけではできないので、コーチに俯瞰で見てもらい、自分の進捗がどうなっているか理解することが重要です。
それと、すごく(大事に)感じるのは、「オーバーワークを止めてくれる」という点。
例えば今回KONAに入ってからも、つい多めに(追い込んで)バイクに乗ってしまったり、走ってしまう――といった場面で、すぐにメールが入って「もう、やめさない」と止めてもらえる。
押してくれるところは押してくれるし、引くべきところでは止めてくれるので、(もっていきたい状態まで自分を)つくるのが、やっぱり早い(効率的)ですね。
―プログラムやメニューの内容も大事だけれど、それよりも根本的には、信頼できるコーチに、客観的な目で、俯瞰で見て、進捗を把握させてもらえる、というメリットのほうが大きいと?
若山そうですね。昨年、宮古島大会に出たとき、試しに自分だけでトレーニングを管理して臨んでみようかなと思って、過去に提供してもらったプログラムやメニューをもとにやってみたんですが、結局、その進捗がつかめず、結果もまったく出なかったので。
KONAを目指すにしても、一日にしてそれはなしえないので、オンラインなのか、直接指導なのか、どのような方法をとるにしても、進捗管理をしっかりするということは大事だと思います。
良いチームメイトと、質の高い練習をする
―ほかにKONAを目指す上で(≒ロングのトライアスロンで強くなるために)気を付けているポイントは?
若山あとは、グループで練習する人と、個人で練習する人と、タイプがわかれるところかと思いますが、自分は、そこはうまく使い分けるようにしています。
スイムはひとりでやることが多いのですが、ランはチームYの仲間と練習したり、バイクではツール・ド・おきなわに出ているような強いローディー(サイクリスト)の練習仲間がいて、チームYのスピニングのような機会もある。
やっぱり良いチームメイトと、質の高い練習をするというのが結構、重要なポイントかなと思います。
スイムは競技経験があるので、自分でも何とかできる部分はありますが、バイクやランは、あとから始めて全然強くないので、良い選手と練習して、自分の動きとか、「ペダリングが今、どうなっているか?」とか、積極的にフィードバックをもらうようにしています。
特に不得意種目は、そうした取り組みが重要だなと感じています。
最後は「獲ると決めたところで、獲る!」覚悟
若山KONAを目指すという意味では、あとはもう根性論みたいになってしまうんですが、「獲ると決めたところで、スロットを獲る!」というか、ターゲットを決めたら覚悟をきめてやる。これに尽きると思います。
コーチとのやり取りでも、「このレースでKONAを獲りにいきます」と宣言したら、そこに照準をしっかり合わせてやっていく。
仕事と折り合いをつけるのも大変ですけれど、そのあたりはスポーツ業界に勤めている分、自分はまわりの理解が得やすいというアドバンテージはあるかなと思います。
あと、日本人は言葉の壁もあってか、海外のレースでも日本人同士で固まりがちなのですが、もっと海外の選手とも積極的に関わって、自分から情報を取りにいったほうが楽しめるんじゃないかと思うこともあります。
ですので僕自身、海外のレースに出たときは、現地でいろいろなイベントに参加したり、フィニッシュ後、まわりの海外選手に話しかけて、どういう仕事をしていて・トレーニングの時間はどのくらいなのか? とか、何を考えてトライアスロンをやっているか、とか、必ずやり取りして、友達をつくるようにしています。
KONAはもちろん、海外のアイアンマンなどでも表彰台に上がっているようなモンスターというか、ものすごく強いエイジグルーパーは必ずいるので、そうしたところにある情報を自分からどんどん取りにいって、取り入れられることは取り入れてみるというのも、面白いと思っています。
海外の強豪エイジに感じる、強さの秘密!?
―お仕事も相当忙しいと思いますが、アイアンマンと仕事の関係性は?
若山これまで4回、KONAに出させてもらって、(トレーニングなど)すごく時間がとられることは確かですが、やはり生活にメリハリが出るのが良い面かなと。
仕事もここまでに終わらせて、練習にいかなければ、とか、海外出張では、夜の会食を削ってランニングに充てたりとか。ダラダラ仕事するのではなく、「ここまでは仕事で、ここからは練習!」というふうに区切りがつく。日常生活でも、土日の午前中は練習、午後は子どもの試合に行くとかね。
特に海外は、日本のような「練習」という文化がなくて、トレーニングをすることが普通に日常の一部で、彼らはそれがキツいこと(耐え忍ぶ修行的なもの)とは思わないようです。
海外の強いトライアスリートには、どこでもPCがあれば仕事ができるような働き方・職種の人も多いですが、いずれにしても、しっかり仕事も稼ぎもありつつ、アイアンマンがあるライフスタイルをすごく楽しんでいる。そういう人たちとレースで競うのって、なかなか厳しいですよね。
KONAに出ている人の平均練習時間(※)など聞くと、一般的な日本人の感覚ではビックリしてしまいますが、トレーニング自体が生活の中の一部である彼らにとっては、それほど特別なことじゃないというか。
※注:平均トレーニング時間18~30時間と公表されている
>>>「ゼロから分かるKONA(IRONMAN)」参照
若山さん自身の今後のアイアンマンライフは? 5回、6回とさらにKONA出場を重ねていくイメージですか?
若山うちのチームは猛者がたくさんいて、KONAを学校に例えるので、今自分は小学4年生(出場4回目)なんですけれど、「中学に行く(7回出場)までは、まだまだ甘いね」と言われます(笑)。いやぁ、ホントにすごい人ばっかりです。
兄がこのあいだのIMコリアで初めてKONAスロットを獲ったので、まわりでは「来年(2020年)は兄弟対決だね!」とか言われるんですが(苦笑)、今回は2018年秋のIMコリアでスロットを獲って、今年1月から10カ月間(KONAに向けた)トレーニングが続いて、あまり休みもなかったので・・・今回のレースが終わったら、まずは1~2カ月は何もしないで休みたいですね。
そのあとまた続けるスイッチがまた入ったら、またKONA目指して、集中していくんだと思います。