KONAを目指す挑戦者たちのライフストーリー

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皆川亜紀子さん

最初にKONA出場権を獲たのは、
ポジティブな行動力知的探究心あわせもつ女性だった。

KONAチャレプロジェクトがスタートしてまもない6月、早くもアイアンマン・ケアンズでアイアンマン世界選手権(以下KONA)の出場権を獲得した皆川亜紀子さんは、医療系の法務コンサルタントであり、大学生と中学生のお子さんをもつ主婦。ユニークなのはシーズン中、毎月のようにロングの大会に出ることだ。型破りな発想でトライアスロンを楽しむ彼女に、その生き方・考え方を聞いた。

「大会にたくさん出る」というスタイル

4月末に行われたKONAチャレのキックオフミーティングで自己紹介した皆川さんは、ユニークな発言で異彩を放っていた。

「とにかく大会が異常に好きで、2年前から毎年アイアンマン2〜3回のほか、ITUロングディスタンス世界選手権、佐渡トライアスロンのAタイプなどに出ています。世界選手権の翌週佐渡Aに出たことも。好きだからやめられない。大会をトレーニングにしながらKONAに出場できるようになりたい」

KONAチャレ・レギュラーメンバーの女性では最年長の50代前半。細い身体と飄々とした話し方は、どこにそんなバイタリティーが隠れているのかと思わせる。

アドバイザーの竹谷賢二さんから「アイアンマンにたくさん出る楽しさと、KONAに出るためのトレーニングとどちらかを選ぶべき」とアドバイスされても「好きなものはやめられない」と語っていた。その皆川さんがその1カ月半後、KONA出場権獲得第1号になったのだから、トライアスロンはわからない。

40代で始めたランニングから
トライアスロンへ

皆川さんは宮城県石巻生まれ。大学は医学部に進んで医師になり、30代前半まで大学病院の勤務医として忙しい日々を過ごした。

「特に理系の分野に興味があったわけではないんですが、勉強は好きでした。医師になったのは母が看護士だったというのもあるかもしれません。でも、大学病院の勤務医の仕事はハードですから、結婚して子育てしながら続けるのはちょっと難しい。そこで何か家庭と両立できるような別の仕事をしようと考えました」

大学病院を退職すると、法律を勉強して司法試験に合格。医師の知識・経験も生かせる医療系法務のコンサルタントになった。学生時代のスポーツ歴は大学時代に水泳部で泳いだことくらいだという。

「この水泳部も活動が毎年5月から7月までしかなく、一応練習メニューはあるけど、コーチが指導するわけでもなく、各自が勝手に練習して大会に出ておしまいといういい加減なものでした」

医師になると仕事が忙しくて運動はまったくしなくなった。次に運動を始めたのは40代に入った頃。健康のためにジョギングを始めた。やがて大会に出場するようになり、ハーフマラソン、フルマラソン、ウルトラマラソンも完走した。

トライアスロンとの出会いは48歳。自宅近くの公園で開催された3時間耐久ランというイベントで、宮城県のトライアスロン協会が練習会のチラシを配っていた。1日3〜4時間でスイム・バイク・ランを行うというものだった。

「ランは問題ないし、スイムも練習はしていなかったけど、一応泳ぐことはできる。バイクは一時期ロードバイクに興味をもった夫に付き合って作ったものが、1〜2度乗っただけで物置にあったんです」

練習会に出てみたら、面白かった。トライアスロンというとハードなイメージがあったが、自分にもできるということがわかり、やる気になった。早速練習して翌年七ヶ浜トライアスロンでデビュー。大会でさらにトライアスロンの楽しさを知った。

皆川さんがアイアンマン初出場を果たした2016年のアイアンマンNZ

アイアンマンに出会って
レースが病みつきに

初めてアイアンマンに出たのは一昨年3月のニュージーランド。お祭りのような賑やかさ、楽しさにすっかり魅了され、6月のアイアンマン・ケアンズ(オーストラリア)にも出た。ますますアイアンマンが好きになり、去年・今年とこの2大会に連続出場。

トライアスロンは競技説明会やバイクチェック、パーティーなど、ほかのトライアスリートと交流する機会がたくさんあり、行くたびに日本人や外国人の友達ができる。毎年出ると、宿や街の店に現地の顔なじみができ、彼らと再会して話すのも楽しい。去年はニュージーランド、ケアンズにマレーシアが加わり、今年は南アフリカに出た。

「大会で会った人たちに好きな大会を3つ挙げてもらうと、必ず南アフリカが入っているので、これはぜひ行かなければと思ったんです。荒々しく美しい大自然が感じられる素晴らしい大会でした」

アイアンマンだけではない。ITUのロングディスタンス世界選手権にも一昨年から連続出場している。去年はカナダのITUロングディスタンス世界選手権でアクアスロンとトライアスロンの両方に出て、翌週アイアンマンよりバイクが10㎞ほど長い(190㎞)佐渡Aタイプにも出た。

「身体が長いレースに向いているのかも。スピードはないけど最後までもつし、あまり追い込めないせいか、そんなに疲れが残らない。翌日から軽いジョグを始めて1週間くらいで通常の練習ができるようになります」

レースでのペースが上げられないのが課題だが、その分、レース後のダメージが少なく、回復も早いのが強み。アイアンマン・ケアンズのレース後も、数日後には低酸素ルームでのトレーニングを淡々とこなしていた

練習も栄養も、
研究・工夫するのが楽しい

トレーニングは自分でメニューを考える。独学だが、雑誌やネットなどで情報収集し、参考にする。デイブ・スコットのサイトやトライアスリート・ドットコムなど海外のサイトも情報源だ。トレーニング方法や栄養など、トライアスロンに関わるあらゆる情報を集めて、自分に合わせて活用する。

「最初はただ3種目漫然と練習していたんですが、もう若くないのでむやみにやってもあまり効果がない。そこであれこれ考えるようになりました。仕事や家庭のこともやりながら、限られた時間でいかに効率良く楽しく練習して効果を上げるか、工夫するのも面白い」

どうやらただたくさん大会に出て楽しむだけのエンジョイ・アスリートではないようだ。少女時代から勉強好きで、医学や法律を勉強した探究心がここでも生きているのだろう。仙台からルミナクラブのTK合宿や朝スイムにも参加してノウハウを学んでいるという。KONAチャレでVO2MAXなどのチェックを行っているSPORTS SCIENCE LABにも、プロジェクトが始まる以前の今年2月から月2回通っている。

「竹谷さんにはバイクの技術だけでなく、トレーニングの考え方など色々なことを教えてもらっています。合宿は夫の実家に前泊しますが、朝スイムは会場に近い新宿まで夜行バスで来て、セッションに出てとんぼ返り。バスではあまり眠れませんが、これも睡眠不足でレースに出るときの訓練になると、前向きに考えています」

生来の「勉強好き」「探求心」はトライアスロンのトレーニングにも生きている。KONAチャレの協力施設でもある「SPORTS SCIENCE LAB」の三田裕介・代表とケアンズでのレースについて早速振り返る 

トライアスロンを楽しみ尽くす
行動力とおおらかさ

知的探究心だけでなく、行動力も併せもつ皆川さんは、海外の大会もツアーではなく、航空機も宿も自分で手配して単独で参加するという。ひとりだから現地で新しい出会いの機会も増える。

「宿泊先は基本的に安宿です。一度シャワーのお湯が出なかったことがあります。他にも手配しておいたタクシーが来ないなど、トラブルがいろいろ起きるけど、それをどう切り抜けるかも旅の楽しみのひとつです。ニュージーランドで大会当日寝過ごし、起きたら5時半。6時に宿を出て6時半バイクエリア到着。タイヤの空気、補給食などをセットしてギリギリ7時のスタートに間に合ったこともある。走ったので心拍が上がり、ウォームアップになった(笑)」

このポジティブさ、精神的なタフネスもアイアンマンで強くなるために必要な資質だ。皆川さんはたくさん大会に出ることで、楽しみながらそれを鍛えていると言えるかもしれない。たしかにユニークではあるが、探究し改善していく姿勢はKONAチャレの基本と合致している。

常にポジティブで、大会遠征先でのトラブルも楽しめる大らかさをもつ皆川さん。これもアイアンマンで強くなる人の資質のひとつ

「毎月ロングに出ていても、疲労の回復をチェックしながら問題なくトレーニングできているから、合理的なトレーニングの一環としてそんなに支障はないと考えています。故障しないように、痛みを感じたら原因を考え、早めに手当し、栄養をとって休養することを心がけています。だから今のところ大きな故障はしていません。

あと、身体が健康であることはスポーツだけてなくすべての基本ですから、食事は大切。合成化合物が入っている食品は身体に負担をかけるので避けるようにしています。サプリメントは今までとっていなかったけど、今回KONAチャレでいただいたWINZONEのプロテインを試したところ、(練習やレースの)ダメージからのリカバーや、ケガの回避にいいと感じました」

ケアンズではKONA出場権をゲットして喜んだが、同カテゴリー1〜3位が権利を行使しなかったことでまわってきた出場権だから「まだ目標達成ではない」とKONAに向けて気持ちを切り替えている

家族に感謝しながら
アイアンマンを続けていきたい

6月のアイアンマン・ケアンズは、フィニッシュタイムが11時間53分53秒。始めて12時間を切り、ランも始めての3時間台と、自己記録を更新してKONAの出場権を獲得したが、皆川さんは必ずしも満足していない。出場枠ふたつのエイジグループで5位、1〜3位が権利を行使しなかったことで獲得できた出場権だからだ。KONAに出るために必要と考えている目標タイム11時間30分にもまだ届いていない。

「ラッキーだったんですね。いつでもKONAに出られるレベルの人たちは、毎回出なくてもいいわけで、今回はそういう人たちの辞退があって、出場権が私まで降りてきた。でも、これで目標達成じゃない。KONAチャレメンバーは卒業しても、このプロジェクトで教えていただいたことを生かして、これからも進化していきたいと思います」

これまで海外の大会に家族と行ったことはないが、10月のKONAには夫と行く予定だ。年に何度も1週間前後家を留守にして海外の大会に出られるのも、家族の理解があってのことだから、家族にはいつも感謝している。

「外国に行くと自分がいかに恵まれているかわかりますね。家では口うるさい母親ですが、レースに出ると家族に感謝の念が湧き、真人間になって帰ってくる。まあ、日常が始まるとまたすぐうるさい母親に戻るんですが(笑)」

プロフィール

Akiko Minagawa

トライアスロン歴4年、アイアンマン(以下IM)には、2016年ニュージーランド大会でデビュー以来、年4回ペースで出場。9回目のIMとなった今年のケアンズで女子50-54カテゴリー5位(総合タイム11時間53分59秒)に入り、見事KONA出場権を獲得した。宮城県仙台市在住、53歳。ニックネームは「アッキー」。

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