デイブ・スコットのKONAチャレンジ特別講義

KONA6勝のレジェンドが教える
アイアンマンで強くなるために大切なこと。 PART2

PART1 の高強度トレーニングに続き、補給(栄養素や食生活)と筋力トレーニングについての内容を紹介していこう。
Part1はこちらから

PART2.
健康でヘルシーな生活が パフォーマンスアップの鍵

2.Nutrition(栄養)
――低炭水化物・高脂肪の食生活が健康とパフォーマンスを向上させる。

レースで食べ過ぎ、一気食いはNG

まずレースの水分・栄養補給で大切なのは、同じ状態を維持することです。食べたからとい ってすぐ効果が出て速く走れるというものではありませんし、たくさん食べれば速くなるわけでもない。体内のエネルギー源を切らさない程度に飲み、食べることを心がけましょう。

特に要注意なのは、ランのためにバイク終盤で短時間にたくさん食べること。胃腸にストレスがかかり、ランに入ってから吐いたりトイレに何度も駆け込む羽目になることがよくあります。

レースはそれ自体、脳にも身体にも大きなストレスですから、脳も内臓もバイク終盤までにかなりダメージを受けています。そこで補給食を詰め込んでも脳や胃腸が受け付けません。吐いたりトイレに行ったりする事態にならなかったとしても、身体はそんなにたくさんの栄養を消化吸収してくれません。

レースはトレーニングよりハードだから栄養もたくさんとるべきだと考える人が多いようですが、食べ過ぎは逆効果。たくさん摂っても胃腸に負担がかかり、結局消化吸収できないで終わります。また、炭水化物を摂り過ぎるとお腹の中でガスが発生するので要注意です。

普段から低炭水化物、高脂質を心がけよう

普段の食生活でも炭水化物は減らすべきです。炭水化物の摂り過ぎが肥満や糖尿病の原因として問題になっていますが、パフォーマンス向上のためにも健康のためにも炭水化物をより少なくとることを心がけましょう。

炭水化物を減らし、より多くの良質な脂質と適度な良質のタンパク質を摂ることで、胃腸や肝臓、心臓、肺などすべての内臓に良い影響が生まれます。インスリンの分泌が変わり、身体がエネルギーを効率良く使えるようになるので、レースでもトレーニングでも糖質をあまりとらなくても済むようになります。低炭水化物・高脂質の食生活は健康にもトライアスロンのパフォーマンス向上にもいいのです。

良い脂質が摂れる食品は、アボカド、オリーブ、ココナッツ、ナッツ類(アーモンド、クルミ、マカデミアナッツなど)、牧草で育った牛、ハード系のチーズ、全卵、質の良いベーコンなどです。サバ、イワシ、ニシン、マグロなどの魚も良い脂質を含んでいます。

豆は良い脂質を含んでいますが、デンプンが多く含まれているのであまりお勧めできません。

Q&A

KONAチャレメンバー炭水化物は全く摂らなくてもいいのでしょうか?

Daveゼロではありませんが、少なくする必要があります。かつて持久系スポーツの世界では炭水化物が主要なエネルギー源であり、動き続けるのに必要と言われていましたし、私もそう信じて炭水化物を摂っていました。しかし、栄養について科学的な勉強していくうちに、もっと健康にもパフォーマンス向上にも良い方法を見つけたのです。

それが肝臓で作られるケトン体(Keton Body)を活用する方法です。これは生理学・栄養学的にとても複雑な内容を含んでいるので、ここで簡単に紹介するわけにはいきませんが、よかったら私のニュースレターなどを読んでみてください。

炭水化物の依存度を減らし、脂質を燃焼させることでケトン体を効果的に作ることができるようになります。このケトン体をエネルギー源として使うことで、栄養補給による身体への負担を減らし、効率良く動き続けることができるようになります。

ちなみに今、私がトレーニングで飲んでいるドリンクの栄養比率は、脂質(ココナッツオイルやナッツバターなど)70%・タンパク質 20%・炭水化物 10%です。ケトン体の活用については日本にも有名な研究者がいますが、私が参考にしている研究者は Jeff VolekとStephen Phinnexです。

© Kenta Onoguchi

Q&A

KONAチャレメンバーレースのハードさはトレーニングと違いますから、補給はトレーニングと同じというわけにはいかないと思いますが、レースで必要な補給の量をどう割り出したらいいでしょうか?

Daveレースに近い状態をトレーニングで作り出すことは可能です。確かにレースのように強度が上下する状態は普通のロングライドよりハードですが、HIIT(High Intensity Interval Training=高強度インターバルトレーニング)をそこに組み込めば、レースと同じかそれ以上の強度での上げ下げが再現できます。補給を行いながらこのトレーニングを繰り返していけば、レースで必要な栄養の量も分かってきますし、安定した消化吸収を行うことができるようになります。

HIITの例≫≫≫ロングライドに組み込む場合

3時間の場合

ウォームアップ30分
  ▼
[セッション 1] IM70.3 より高い強度で 20 分×1 本
  ▼
イージー8 分
  ▼
[セッション 2] IM70.3 より高い強度で 5 分×4 本のインターバル
  ▼
イージー8 分
  ▼
[セッション 3] IM70.3 より高い強度で 2 分 30 秒×8 本のインターバル
  ▼
スローダウンしてロングライドを継続

4時間の場合、セッション間のイージーを20分に。イージーは普通のエアロビックペースより遅くても可。ロングライドの中にHIITを組み込むことで、レースに近いトレーニングができます。

© Kenta Onoguchi

3.Strength, Mobility, Flexibility (筋力、可動性、柔軟性)
――筋トレ、ストレッチはパフォーマンス向上に必要不可欠。

特に肩・腰・お尻の筋力・可動性・柔軟性が大切

最初にお話ししたように、多くのトライアスリートがスイム・バイク・ランの持久系トレーニングにフォーカスし過ぎて、筋力や関節の可動性、身体・筋肉の柔軟性を向上させるエクササイズの大切さを理解していません。これらの要素をなおざりにしていると、姿勢や動きが悪くなり、スイム・バイク・ランのパフォーマンスに大きく影響します。

レースでパフォーマンスを発揮するには、スイム・バイク・ラン以外に、筋トレで筋力をア ップし、ストレッチなどのエクササイズで関節の可動域を広げ、筋肉の柔軟性を高める必要があります。

身体の部位で重要なのは、肩まわり・腰まわり・お尻まわりです。
これらの関節が固まり、可動域が狭くなったらスイムもバイクもランにも影響します。この部分の筋肉が弱いと姿勢や安定が悪くなり、これもスイム・バイク・ランのパフォーマンスに影響します。

今日は具体的なエクササイズを紹介する時間がないので、基本的な取り組み方だけお話しします。エクササイズは私のWebサイトを見てもらえば、動画によるいろいろな例を見ることができます。

毎朝ウォームアップエクササイズで身体を目覚めさせる

可動性・柔軟性を高めるエクササイズは毎日行うと効果的です。筋トレは週2回程度にしましょう。

可動性・柔軟性のエクササイズは朝でも仕事の合間でも夜でも、時間があるときに行いましょう。エクササイズというと30分とか 1時間とかまとまった時間行うイメージがあるかもしれませんが、1回の長さより頻度が重要です。同じ1時間でも、週1回1時間行うより、毎日5〜10分行うほうが効果的です。

私がお勧めするのは、朝8〜12分のウォームアップエクササイズを行うことです。エクササイズは身体が温まらないうちは身体が拒否しますが、ウォームアップエクササイズを行うと身体が温まり、リラックスして動ける状態になります。こうして一度身体を温め、ほぐしておけば、あとは1日中いつでも、わずかな時間でも、ストレッチで可動性・柔軟性を高めることができます。

仕事でデスクに長時間座る人も多いかと思いますが、肩・腰・お尻の可動性・柔軟性のためには、椅子に座る姿勢というのは最悪です。仕事の合間や休憩時間などに、短時間でもこれらの部分をほぐすエクササイズをやりましょう。

Q&A

KONAチャレメンバー年々KONA のエイジグループの記録が伸びています。50〜60 歳など歳を重ねても速くなっている人もいますが、これは筋トレやエクササイズ、栄養改善などの効果でしょうか?

Daveそもそもなぜ歳を取ると遅くなるんでしょうか? 一番大きな要因は筋肉量が落ちることですが、筋トレを続けていると筋肉量の落ち込みを抑えることができます。

今回紹介したことはどれも、トライアスロンのパフォーマンス向上と同時に健康レベルを高めるためにも重要なことです。私は今64歳ですが、これらの努力を続けることで、平均レベルよりはるかに若く元気でいることができます。皆さんもぜひ、速くなると同時によりヘルシーになり、美しく元気に年を重ねてください。

今日は皆さんとお話しできて、私もエネルギーをもらいました。またいつか KONA でお会いしましょう。

≫≫≫「PART1. 高強度トレーニングは短時間で精度高く」はこちらから

プロフィール

Dave Scott

1980 年、第 3 回 IRONMAN 世界選手権(IM ハワイ)で前年までの優勝タイム(11 時間台)を大幅に塗り替える 9 時間台のタイムで制してアイアンマンをチャレンジイベントからスポーツへと昇華させた。以来、1987 年までに通算 6 勝をマーク、1994 年には 40 歳で2 位、1996 年には 42 歳で 5 位に入るなど、約 16 年間にわたりアイアンマン・シーンを代表するトッププロとして活躍した。1989 年、打倒デイブ・スコットの悲願をかけて挑んだマーク・アレンとの激闘「IRONWAR」(※アレンがランでの並走勝負を制して初優勝し、その後の5連覇につながる)は、アイアンマン史上最高の名勝負として語り継がれている。 1954 年生まれ、64 歳。公式サイト DaveScottInc.com

KONAチャレンジ公式パートナー「HOKA ONE ONE」について

HOKA ONE ONE®(ホカ オネオネ)はアイアンマンシリーズおよび、コナ(アイアンマン・ハワイ)の公式シューズ。大会公式ブランドとしてランコースのネーミングライツを 2年連続で獲得し、2017 年にはついにランニングシューズシェア No1 になった。コナレジェンドのひとり、デイブ・スコット(アンバサダー)も認める世界イチのシューズブランド。

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