2018年10月13日、KONAチャレンジ初の卒業生として、ロングディスタンス・トライアスロンの世界最高峰レースIRONMAN World Championship(通称KONA ※開催地が米・ハワイ島コナであることによる)に出場したアッキーこと皆川亜紀子さん。
12時間57分26秒(スイム1時間45分33秒/バイク6時間34分39秒/ラン4時間16分51秒)で完走したが、世界最高峰の舞台は、ただ甘美な「ご褒美レース」じゃなかった。
夢を現実のものに変えた、アッキーに訊く、初めてのKONAと、その先に続く道と――。
プロフィール
みながわ・あきこ
トライアスロン歴4年、アイアンマン(以下IM)には、2016年のデビュー以来、年4回ペースで出場。2018年ケアンズで見事KONA出場権を獲得し、10月13日のKONA本戦に出場・完走を果たした。さらにその約1カ月後、11月17日に開催されたIMランカウイで年代別優勝(11時間48分32秒)を果たし、二度目のKONA(2019年)出場を決めている。宮城県仙台市在住、53歳。ニックネームは「アッキー」。
※「ウミガメのぬいぐるみ」持参の理由は本文参照
Interviewer
山口一真
1982年東京生まれ。小学校から大学までバスケットボールに打ち込む。社会人になってスポーツから遠ざかり、一時期体重が100kgを超えたが、選手時代のノウハウを活かした食事と運動により1年間で40kgの減量に成功。メイクスのKONAチャレ担当になったのを機にこの5月からスイム・バイク・ランのトレーニングを始め、10月にはアイアンマン台湾を完走した。
第3回フィードバックMTG(11月4日)での凱旋報告
もう一度、イチからKONAチャレ!
皆川今回のレースがちょうどIM通算10戦目だったわけですが、KONAは楽しむ場所というか「ご褒美レース」だと思い込んでいたんです。まわりの人(KONA経験者)からも「KONAは楽しんでいいよ」って言われて、「そうかじゃあ、今回は楽しもう!」と。
翌月には(次のKONAスロットを狙う)ランカウイもあるので、「ちょうどいい具合にやろう」と思ってしまったんですよ。でもIMの場合、「このくらいペースを抑えれば、疲れない」なんてことはないということがわかりました。
たとえば15分遅くバイクを走ったって、疲れないわけじゃない。今回のランもベストより15分以上遅かったんですけど、だからと言って疲れなかったわけじゃない。やっぱり毎回全力で行かなきゃダメだと、10回目のIMにして思いました。
それから、KONAで、今までの9回のアイアンマンと決定的に違ったのは、まわりのレベルが高すぎること。
今までのレースだと、バイクでもスイムでも、必ず近くに似たくらいのレベルの選手がいたんですけど、今回は探してもいない。たまに同じくらいのペースの選手がいたかと思うと、それは私より上のエイジの人だったり。
バイクで帰ってきたときには、もう「You are an IRONMAN!」というMCのコールとともに続々と選手がフィニッシュしている。そんな中、自分はこれからあと4時間か・・・と。
コース自体も、一般的な意味で、何にも楽しいことがない。バイクコースは辛い風が延々とつづいて。ランなんかホントつまらないコースで、暗くなるとライト(街灯)さえなくて、真っ暗。
街の近くには応援の人もいるんですけど、離れたコース上には誰もいないんですよね。ほかのアイアンマンだと、土地々々で応援があって、少なくともランは気がまぎれたりするんですけど、KONAのランコースはホントに真っ暗。
(どこを走っているかの目印になる)景色も見えないので、距離もわからない。もう閉まっているエイドもあったり・・・。あの暗くなってからの帰りのランが辛かったですね。
もうひとつ失敗したのは、大会の前々日。海岸で遊んでいたら、ウミガメが泳いでいて、触れるんです。そしたら罰が当たって、岩場で手を切ってしまった。血がダラダラと流れるくらい。結局、大会当日もメディカルスタッフに処置してもらって、そうでなくても遅いのに、手袋して泳がなくてはならなくて・・・私はKONAまで来て何をしているんだろうと。
KONAは「楽しんでいこう」と思っていたわけですけど、竹谷さんもおっしゃっていたとおりあそこでの楽しみというのは、一流の人たちとレースできることであって、それがすべてなんだなと。
せっかく、そういう素晴らしい経験をするチャンスをいただけたのに、それを十分に生かせなかった。しっかりそのあたりを見つめ直して、「もう一度、KONAチャレ、イチからやり直そう!」と、そう決意しました。
私は今回偶然で出場できたようなもんで、レースの結果も全然ダメだったんですが、それでも「やればできる」という確信はもてました。それをもとにもっと頑張ってみたいと思います。
みんなもあきらめずにその気になって確信をもてば必ずKONAに行けます! これからも一緒に頑張りましょう。
「次は最高の舞台にふさわしい自分に仕上げていこう」
現地でも行動をともにさせてもらって、とても頑張っていましたが、KONAというのは言うまでもなく世界最高峰の舞台、いわばダンサー(ミュージカル俳優)にとってのブロードウェイなわけです。
そのダンサーがブロードウェイの舞台に抜擢されたとき、「あぁ、ブロードウェイに出られてうれしいなぁ~」とただただ喜んで、そのまま舞台に立つでしょうか? 世界の超一流ダンサーたちの中に放り込まれて、それに見合う十分な準備ができていなかったと想像したら、どうでしょう? ――と、今回のアッキーは、そんな感じの状況だったわけです。
もちろん初めてのKONAは、そういうものでもあると思うのですが、せっかくKONAに行けるならば、今度は、その場にふさわしいレベルに自分を仕上げていきましょう! と思うわけです。
ただ、今回のKONAでのレースはさておき、シリーズ戦では順調にレベルアップしてきているので、この伸び率で頑張っていけば、今度はロールダウンを待たず、自力でKONAスロットを獲得できると思います!
※実際、この後、開催されたIMランカウイでは、見事年代別優勝。ロールダウンを待たず、自力でKONAスロットを獲得した。
TKに「こちら側の世界へ、ようこそ!」と言ってもらえたのが、うれしい。
山口私自身も10月の台湾でIMデビューしたのですが、先ほどほかのメンバーへの報告で、アッキーさんがおっしゃってた、「真っ暗になって観客がいなくなって、エイドも閉まってきてしまう寂しさ」というのは、僕も実際経験して分かりました(苦笑)。
皆川すごく寂しい。今までは、そんな経験なかったんだけど。
ランはひとりでホントにこんな感じ(記事冒頭の写真を見ながら)。ここ(エナジーラボ)はまだ灯りがあるんだけど、この前後はホントに真っ暗で何も見えない。向かいからくる人とぶつかりそうになるくらい。最初から遅い時間帯に走るとわかっているベテランの方は、ちゃんとヘッドランプを着けているんです。
山口ランの写真では手袋はしていないですね。
皆川手袋は、防水素材のバンテージのようなもので、はじめのスイムのときだけ。後で聴いたら、ケガをした海岸は岩場で波も強いので現地の人も泳がない場所らしいんですね。レース前は生ものも食べないし、生水も飲まないとか言ってるのに、どうしてそういうリスクも考えず、あんな岩場に行っちゃったんだろうか・・・その反省がすごいですね。
山口「KONAは楽しむところだ」とご友人に言われて、誤解してしまったとのことですが。
皆川きっとその友達は、世界最高峰のレースでしっかり競技として全力を出すのを楽しんだのかもしれない。私の勝手解釈だったかと。
今回8人の友人たちがKONAまで応援のためだけに来てくれたんです。顔では平静を装ってましたけど、ホントにそこまでしてくれて感謝。涙が出るくらいだったんです。けど、スイムを上がった時点で(自分のタイムを見て)「せっかく来てくれたのに、こんなタイムで申し訳ない・・・」とショックでね。
バイクを走り終えた時点で、素晴らしい人たちが続々とランを終えようとしているのを見て、それに圧倒されると同時に、打ちひしがれて・・・。
山口なんだかすごい不思議ですよね。KONAチャレに応募していただいて、念願の出場権を最初に獲得されて、その本番で打ちひしがれるという。
皆川まわりの偉大さとか、いろいろなものに触れて、やっぱり「特別な場」なんだなということを実感しました。今度出ることができたら、そのときは、もう「楽しむ」とかじゃなくて、「全力を出し切るのを楽しもう」と。それが遅くてもなんでも。そういう気構えができました。
山口あのKONAスロットを獲得したときの写真を見ていたので、今日のフィードバックでの皆川さんの落ち込みようを見て、あまりの落差に驚きました。
皆川もう反省。でも、(今回のフィードバックMTGと)同じようなアドバイスを現地でも竹谷さんにいただいていたのですが、それで気づきがあって、今度はKONAでも全力を出すために頑張ろうという気持ちができて、それを伝えたら、竹谷さんに「こちら側の世界へ、ようこそ!」と言っていただけた。それがうれしくて、すごく大きな収穫でしたね。
ともあれ、あの舞台に手が届いたのはKONAチャレのおかげ。意識も変わりましたし、私は何カ月かでしたが、やっぱりトレーニングのもっていきかたとか、教えてもらったことは、すごく勉強になったし。
あとほかのメンバー、やる気に満ちた人たちの仲間に入れてもらったことで、意識づけも完了したし。ここに入らなければ、KONAには行けなかったと思う。
山口KONAチャレンジに参加して、一番変わった部分はどこですか?
皆川意識のもち方ですかね。今までは、「いつかはKONAに行きたいな」と何となく思っていただけだったのですが、「3年以内にKONAへ!」ということになると、いやでも具体的に意識することになるじゃないですか。
あとはいろいろな測定を受けさせていただいて、それぞれの測定施設でも、気づきと意識の変化がありましたね。
山口注目はここからですね。アッキーさんの新しいKONAチャレが始まると思うんですけれども、ここから、2回目のKONAに向けて、どのように進みますか?
皆川もう反省は十分できたので、今は気持ちを切り替えて、やるべき課題に取り組みたいと思います。
それにKONA出場は「1回やったこと」になったのも大きい。もう一度到達している領域は、次も到達しやすいというか、「まったく不可能なことじゃない」という精神的な確信がもてました。
KONAチャレは、すべての人の自己実現を応援するストーリー
山口そもそも私たちがこのKONAチャレンジを始めたきっかけというところに立ち戻ると、そこにはアリストテレスの倫理学でも扱われる、「Well being」(※幸福・健康な状態。よりよく生きること)の追求というテーマがあるんです。
私たちの会社はまず「不動産投資」というアプローチで、お客様の幸せをサポートしています。幸せになるにはお金も必要ですから。ただ、もちろん幸せって、お金だけでもつくれないですよね。お金以外に大事なものと考えると、健康とか、コミュニティ――
皆川その人なりの自己実現とか、それができる場というのも大事ですね。
山口私たちとしては、人間が生きていく上で一番価値が高いだろうといわれている、その「幸福」づくりとか「自己実現」をサポートしていくために、不動産投資以外のアプローチも始めてみようというのが、このKONAチャレンジをサポートすることになった、きっかけでもあるわけです。
アッキーさんのKONA挑戦について、お話をうかがっていると、そうした切り口でも一冊の本が書けそうなくらいですね。
皆川まさに自己実現ですよね。だからホントは(相対的な)レベルなんてどうでもいいし、極端な話、レースでのタイムとかも結果に過ぎない。
山口たとえば稲田弘さん(※86歳のKONA最高齢完走記録保持者)なんかは、「Well being」をすごいレベルで体現されていて、わかりやすく周りの人たちにも訴求できる、そうした存在なのかなと。
86歳になっても、17時間近く泳いだり・走ったり、動き続けることができる肉体や気力というのは、その歳になったら何にも代えがたいものだと思うんです。
皆川お金だけじゃ、自分の能力とか、そうしたものは買えない。そのために練習を積み重ねたり、自分で努力をしないといけないわけですもんね。
山口86歳にまでなって、それを追い求める情熱とか気力があるわけですから、ある意味、二十歳の若者より若いのかもしれない。アッキーさんも、同じように見えているのですが。
皆川稲田さんは、存在自体が誇りですよね。もう日本人とか、そういうのを超えて人類の誇り。
山口稲田さんも、ご自身の挑戦が自分だけものじゃなくなってきたという点に気づかれてからは、責任の重さに気づき、それがまた生きがいになってきたとも聞きますが、ある意味、それも承認欲求の延長じゃないかと。やっぱり人に必要とされるとか、そういう要素が強くなってくると、自分以外のモチベーションがたくさん沸いてくる。
KONAチャレの皆さんもそうですよね。メンバーとして公表されて、いろいろな人から、「KONAチャレンジ、頑張ってね!」と言われると、自分自身がKONAに行きたいというモチベーションだけじゃなくなってくるんじゃないでしょうか。
皆川身の引き締まる想いというか、「私はKONAチャレのメンバーでしょ。もうちょっと頑張らなきゃ!」と、メンバーになってそう思いました。
我々は試験があるわけじゃないし、誰かにやれと言われてやるわけじゃない。自分でやりたいからやっているわけで、自分で嫌ならばやめればいいし、それで誰に文句を言われるわけでもない。
でも、そこで「(わたしは)KONAチャレのメンバーでしょ?」と言ってくれる自分がいてくれるわけで。そこは違いますよね。だから、そうした新たなモチベーションを与えてくれたこの企画は素晴らしいと思います。
山口暇な時間があると、人間って、堕落しますよね? 会社に行ったら仕事は絶対やらなきゃいけないことだけど、プライベートはホントに自分が決めるものなので・・・。
皆川何をしてもいいし、なんにもやんなくてもいいですもんね。
山口そうなんです。何もしなくてテレビ観て、ごろごろしているだけのほうが楽なんです。そんな中で、自ら「KONAへ行こう!」と思い立って、挑む人は、やっぱりすごい。それが自分の好きなことだとしても、そこまでできる人って、少ないと思うんです。
堕落しないで、自分のプライベートにそれだけ投資できる人。誰にやれといわれるまでもなく、やらなくてもいいことに努力できる人って、幸せを手に入れる人なんじゃないかなと、そう僕は見ていたんです。
KONAチャレメンバーの皆さんは、根っからのトライアスリートで、元からそのチカラをもっておられたわけですけれど、自分はそれをもっていなかったので、最初に皆さんを見たときに「カッコいいな」と思いましたし、KONAチャレを通じて、そうしたメッセージが伝えられると思いました。
ただKONAに行けるか行けないかだけじゃなくて、「自分も、もうちょっと夢と真剣に向き合ってみようかな」と、まわりの人や読者・ユーザーに、そう思わせてくれるのが重要なポイントなんじゃないかなと。
皆川まったくそのとおりですね。私たちは、その自己実現のひとつにトライアスロンを選んだ。けれど、一生かけて取り組める自己実現のテーマがあれば、選択する目標とか手段は、何でもいいわけですよね。
山口 私たちが10月に始めたオウンドメディア「ウェルビーイング・ラボ 」でも、稲田さんのような「熱中できる体験」、そこで育っている「人や社会とのつながり」、あるいは、他のゲストの方を通じてですが、こうした活動が自由にできるような仕事の仕方や、生き方について考えています。稲田さんの連載も12月半ばから開始予定なので、こちらもぜひのぞいてみてください。